元カノ登場

3/3

69人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
「何よ、こんな魅力も色気もないデカ女! 要君、どうかしちゃったんじゃない!?」  彼女はそう言い捨てると真上君を睨み付けた。  ぐさり。  自覚していても他人から言われると、言葉が矢となって胸に突き刺さるものだ。  苦笑いしようとした時。 「こんな女と付き合って要君の価値もだだ下がりよね! そんな要君なんてこっちから願い下げよ!」  ぷちん。  何かが切れた音がした。 「な! 佐藤を侮辱す――」  声を荒げようとした真上君の腕をぐっと引っ張ると、彼は驚きの表情でこちらに振り返る。  私は笑みを見せると足を踏み出し、彼の前に立った。 「愛花さん、大変よ。見て」 「何よあなた。勝手に人の名前を呼ばないで!」  敵意を見せる彼女にも構わず、私は取り出した手鏡を彼女に向けた。 「ちょっとあなた、何のつもり!」 「ほら、鏡よ。鏡を見て」 「鏡が何よ!」 「ちゃんと見て。今のあなた、酷い顔をしているわ」 「え!?」  愛花さんは反射的に鏡を覗き込む。しかし彼女はすぐに目をつり上げた。 「どこがよ!」 「せっかくの可愛い顔が鬼の形相になっているのが見えない?」  彼女は私の言葉に再び鏡に視線を移すと顏色を変える。 「鏡には、自分の事は棚上げして彼を貶めているあなたの姿が映っているでしょう? 今のあなたに好感を持てる人がいると思う?」 「……っ」 「あのね。私のことを自分と比べて見下すのは結構よ。自覚はある。だけど、そんな私でもあなたに一つだけ教示してあげられる事があるわ」  最初の威勢をすっかり失った彼女だったが、訝しそうに眉をひそめた。 「仮に真上君があなたより劣るような女性と付き合ったとしても彼の価値が下がるわけじゃない。真上君の価値は彼自身よ。真上君自身が変わらない限り、今の彼の価値が失われることはないわ」 「……佐藤」  私は振り返ると、自責の念にかられたような表情の真上君に小さく笑みを送る。そして私は彼女に向き直った。 「愛花さん、あなたも同様よ」  つられたように真上君を見つめていた彼女が私を見る。 「これから先、どんな立派な人と付き合おうともあなたの価値が上がるわけじゃない。愛花さんの価値はあなた自身によって決まるの。自分の価値を他人に委ねている限り、変わることはないわ。この鏡の中のあなたのままよ。――永遠にね」  彼女は目を見開き、やがて悲観したようにくしゃりと表情を歪めた。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加