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昨日は職場での後輩の尻ぬぐいをさせられて大変だった。
……だったのだけれども、それ以上に精神力を費やしたのは帰宅途中の快速列車でイケメン化した同級生の真上要クンと再会した事だ。
私をからかうつもりで彼の駅に降ろされたと思っていたのに、気付けばいつの間にか口説かれていた。
彼とは十何年ぶりの再会なわけで、気持ちが追いつくはずもない。とは言え、彼のスペック力と寄せられる好意に心が揺れないはずもなかった。
しかし最後までのらりくらりとかわした私の強靱な精神力は自分で自分を褒めてあげたい……のだが。
私は職場のデスクで頭を抱える。
「――ございます、佐藤さん」
さて、お茶の約束を取り付けられた今週の土曜日にはどんな服装で行くべきか。
いかにもお洒落してきたという格好では浮かれているみたいで嫌だし、かと言って普段着でも失礼だ。
「佐藤さん?」
会社と家との往復だけで、お洒落にはとんと無縁な非リア充生活を送ってきたからなぁ。
うーん、どうしよ――。
「おはようございます、佐藤さん!」
「わ!?」
すぐ横で大きな声で挨拶をされて、びくりと肩が跳ね上がった。
声の方向に顔を向けるとそこにいたのは三つ年下の会社の後輩、浜中美月さんだった。
「びっくりした。おはよう。朝から元気いいね」
「さっきから何度も話しかけているのに気付いて下さらないんだもの」
「ごめんごめん」
「お疲れですか? 昨日、仕事大変でしたもんね」
浜中さんは私に同情を寄せてくれた。
「ああ、大丈夫。ありがとう」
「何かお悩み中みたいですけど、でもいつもと違って楽しそう。頬緩んでますよ」
「え、そ、そう?」
そんなに?
思わず自分の頬を撫でてしまった。
「何かいい事でもあったんですか? あ。もしかして彼氏ができたとか!」
「そ、そんなわけ、ないじゃん!」
「ですよねー」
「すぐさま肯定スンナ!」
私のプライドのために。
「あら。だったらやっぱり彼氏ができたんですか?」
「そ、そういうわけじゃないけど」
浜中さんは可愛く小首を傾げてこちらの出方を見守っている。
彼女はお洒落には気を配っているし、顔立ちも可愛く、いつもニコニコしていて職場での男性人気もある。彼氏が切れた期間がないそうだし、これぞリア充の塊というやつだろう。
……なるほどリア充の塊ね。
「えっと。ランチ奢るから今日、お昼一緒に食べない?」
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