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まるでドラマのシーンにでも出てきそうなくらい、贅沢に大きく空間を取ったリビングルームだ。
部屋の内装はクリーム色とブラウン色をベースに極めてシンプルだが統一感があり、落ち着いた雰囲気となっている。
家具・家電はあるが、綺麗に整頓されているため、生活感はにじみ出ていない。
負けた。色んな意味で負けた。
――いや、ここは事務所も兼ねていると言っていたから、きっとプロのインテリアコーディネーターと相談して作り上げたに違いない。うん、きっとそう。そう思うことにしよう。
自分の心を慰めていると、彼は私をソファーに座るよう誘導してくれる。
ソファーが濡れることを懸念してしまうが、もしかしたら立ちっぱなしでいられるのも気になるかもしれない。
ハンカチで手早く服を拭いて、素直に座らせてもらうことにした。
「ありがとう」
会釈し、口パクで真上君にお礼を言うと彼は笑って頷き、私から離れていく。
「え? 何だ。だったら最初から行くつもりはないって分かってるだろ。もういいか? 切る――え? 駄目だ、それだけは絶対駄目だ。来るな。いいな? 絶対来るなよ。じゃあ、切るぞ」
まるで芸人の鉄板ネタのようなセリフを吐くと彼は電話を切る。そしてその足でどこかの部屋へと向かったかと思うとすぐにタオル片手に戻って来た。
「今、お茶を入れるよ」
そう言いながらタオルを手渡してくれる。
「ありがとう。あ、じゃなくて、すぐにお暇するからお構いなく!」
そう言ったものの、彼は手を上げてキッチンの方へと向かう。
……いや、聞いてよ。
真上君を視線で追うと、対面式キッチンでお茶の準備をしている彼が見える。
キッチンに立つ姿も様になっているが、普段、料理とかするのだろうか。
一人暮らしして五年だと言っていたし、さっきの彼女さんがここに料理を作りに来てあげていたのかもしれない。
私がじっと見ていたせいではないだろうが、彼は顔を上げるとこちらを見た。
「佐藤、コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「ほ、本当にいいよ!」
はっと我に返ると、思わず立ち上がってしまった。
「もうお湯が沸くから。どっち?」
「え、えと。じゃあ、紅茶ストレートでお願いします」
「了解」
微笑して注文を承ると、彼は視線を落とす。
お願いしちゃったよ……私のバカ。
そう反省したものの、私は仕方なく再びソファーにその身を沈めた。
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