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真上君の厚意に甘えすぎたようだ。
「ごめん。やっぱり図々しかったね」
「あ、いや。そうじゃなくて。犬を見に来るかと誘われたら、誰にでもついて行くんじゃないかと思ってさ」
「あはは、まさか。それはない」
「そうか? まあ、気を付けろよ。……警戒心は低いみたいだし」
「うん、ありがとう」
お礼を言うと真上君は諦めたように笑った。
「ところでさっきは面倒な事に巻き込んで、本当にごめん」
彼は改めて私に頭を下げる。
「ううん。気にしないで。私こそ勝手に口出してごめんね」
「いや。でも俺のために嫌な思いをさせて悪かった」
彼が罪悪感で苦い表情を浮かべているので、私は極力明るい声で言った。
「気にしてないって。私の方こそ彼女に鬼の形相だなんてきついこと言っちゃった」
「情けない所、見せたな」
「そんなことないよ。ほら私って、デカ女だから? 矢面に立たされることが多いんだよね。だから」
苦笑いしながら耳元の髪に触れる。
「庇ってくれて……嬉しかった」
「え?」
「ちょ、ちょっとだけね」
「ちょっとかよ」
「あはは。まあ、穏便に済んで良かったよね」
笑って誤魔化すと彼は渋い表情を見せた。
「俺の前に出た時は焦ったよ」
「ごめんごめん。人間って自分の評価を気にするものだから、今の自分の姿を客観的に見せたら彼女が冷静になるんじゃないかと思ったの」
「もし逆上したらどうするつもりだったんだ」
「だったら一発ぐらいぶたれてあげたわよ」
「……何でそこまで」
あの時は後先考えずに動いてしまっていた。
なんて言ったら、無鉄砲だと呆れられるだろうか。
「私がそうしたかっただけ」
「ありがとう、佐藤。……色々と」
言葉は少なくも、もの柔らかで優しげな笑顔にどきりとする。
「け、結果オーライね。――あ! そう言えば。さっきの電話、もしかして野々村君?」
「そうだけど」
動揺する自分の気持ちを変えようと思って尋ねたが、場の空気が何だか悪い方へ流れたようだ。彼は途端に笑みを消した。
「お誘いがあったようなのに、断らせたみたいでごめんね」
「ああいや、大した用事じゃないから」
首を傾げる私に今度は彼の方が気まずそうな表情を浮かべる。
「合コンの誘い」
「ああ、合コンね、合コン。う、うん、そっか。ごめんねー。行ってもらって良かったのに」
少しモヤっとしつつもにっこり笑ってみせると、彼は目をすっと細めた。
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