興味を持って

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「佐藤、本当に分かっているのか?」 「え?」 「確かに友達からでいいとは言ったが、俺は佐藤を口説いているんだ。なのに俺を快く合コンに送り出すのか? それほど俺に興味がない?」 「そ、そんなつもりじゃ」  あ、あの。とりあえず距離が近いです。せ、迫ってくるのは……。  身を乗り出して近付く真上君に、じりりとお尻で後ずさってみる。 「佐藤の気持ちを急かすつもりはないけど、でももう少し俺に興味を持ってくれないか?」  持っているよ。十分持っているよ。今日だって何の服を着てくるか、一杯悩んだのよ。  そう言ったら彼はどんな反応をするだろう。  けれど彼の反応よりも、それを口にする自分の精神の方が耐えられないに違いない。 「さっきの話だって俺より犬に会いたいんだろ」 「え? うん。それは会いたい、けど」 「だよな……」  彼はがくりと肩を落とし、私は慌てて両手を振る。 「そ、そんなことないよ! 真上君にも」 「俺にも?」  顔を上げて見つめてくる真上君。 「あー、会うのを楽しみにしているね」  冷や汗を流しながら精一杯の笑みを浮かべてみせた。  しかし彼は納得してくれず、なおも問い詰めてくる。 「誰と?」 「へ」 「誰と会いたい?」 「わ、分かるよね?」 「佐藤の口から聞きたい」  彼はさらに身を寄せ、手を伸ばすと私の髪を一筋すくった。 「――聞かせて」  胸に忍び込むような低く掠れた声で囁かれて、肌がぞくりと粟立つ。  甘い毒に思考が麻痺して、誘われるように口を開こうとした。  と、その時。  静寂に沈んだ部屋に真上君の携帯が高く鳴り響く。  驚きで肩が大きく跳ね上がり、私は我に返った。 「お、電話です、よ?」  何とか声を絞り出すと彼は深くため息を吐き、私から身を引いた。そして携帯を確認するとうんざりした表情を見せ、ソファーに放置する。 「あの?」 「気にしなくていいから、さっきの続きをしようか」 「お、お構いなく!」  にっこり笑顔で迫る真上君に両手を挙げてぶんぶんと首を振ると、だよなと彼は苦笑いして再び鳴り出した携帯を取った。 「今行く」  それだけ言うと立ち上がる。 「ごめん。追い返してくる」 「どちら様?」 「野々村。もう扉の前にいるんだってさ。愛花と言い、弘貴と言い、ここのセキュリティはどうなっているんだ」 「あ、あははは。確かに」  頭が痛そうに額に手をやる真上君に頷いて同意した。
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