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玄関の扉前で、真上君と野々村君が言い合いをしている。
やっぱりそろそろお暇しよう。
私はバッグを手に玄関へと向かう。
「あの、真上君。私、そろそ――」
こちらに振り返る真上君の隙をついて野々村君は扉を大きく開放し、真上君から身をするりとかわすと私の前に立った。
どこの忍びだ、キサマ。
「こんにちは。突然ごめんね。お邪魔だったかな?」
人から好意を向けられるのに慣れた人間の余裕というものだろう。言葉とは裏腹に悪びれる様子も無く、笑みを浮かべてそう言った。
真上君とはまた違う物腰柔らかな端整な容姿だ。
まあ、イケメンは認める。ただし、中学生の時と違って軽さが激しく加わった気がしてならない。
髪を少し明るくしているからだろうか。あるいは真上君が先日話していたことでそう見えるのかもしれない。
真上君は野々村君の肩を掴む。
「さっきから邪魔だと言っているだろ。弘貴はもう帰れ」
「あの。私がお暇するのでお気遣いなく」
私は遠慮がちに言った。
「せっかくなんだからもう少しお話ししよう。要、彼女を紹介して」
「断る」
「器が小さいなぁ。まあ、いいや。初めまして、要の親友の野々村弘貴です。以後、お見知りおきを」
なるほど。初めましてか。
野々村君をじっと見つめていると、彼は少し笑って小首を傾げた。
君の名は? ということだろう。
「佐藤里香です」
「佐藤里香? あれ、どこかで聞いたことがあるような」
野々村君は視線を上げる。そしてすぐに彼は人の良さそうな笑みをこちらに向けた。
「ねえ、君。もしかして俺とどこかで会ったことはない?」
「おい、弘貴!」
さすがと言ったところか。使い古された軟派なこのセリフも品のある口説き文句のように聞こえる。
「そうですね」
頷いて私も笑みを返した。
すると野々村君は私の言葉に目を細め、少し口角を上げる。
「へえ、どこでかな」
「同中です」
この答えには驚いたようだ。彼は目を見開いた。
「――あ、思い出した! 塾で要の隣に座っていた子だ。そうだろ?」
一体何ですか、その覚え方。
でも間違いではないので苦笑しながら頷く。
「へえ!」
「弘貴、もういいだろ。帰れよ」
「もう少し君と話したいな。行こう」
野々村君はそう言って家に上がり込むと、私の手首を掴んで引っ張って行く。
え、ちょ。
真上君と言い、野々村君と言い……強引すぎ。
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