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「要、俺はコーヒーを頼む。佐藤さんは?」
「さっき頂いたばかりだから」
勝手知ったる他人の家のようだ。
野々村君はすっかりソファーを陣取り、遅れてやって来た真上君は無言で踵を返すとキッチンに向かう。
「あの、真上君。私も手伝うわ」
「ありがとう。大丈夫だから」
そう言わないで。むしろ一人にしないでほしいんですけど。私、自慢じゃありませんが、実はこう見えて人見知りなのよ?
目で訴えかけてみるが、以心伝心の間柄ではないため、笑みだけ向けられる。
すみません。今は真上君の優しさが、ただただ憎いです……。
「お茶は要に任せて、佐藤さんは俺とここで積もる話でもしよう」
くいっと腕を引っ張られてソファーに座らされた。
と言われても、中学時代あまり接点のなかった野々村君と話せるような積もる話なんて、一向に見当たらない。
「あっと、その前にタオルを借りよう。酷い土砂降りで傘を差していても濡れたんだよね」
野々村君はそう言いながらテーブルの上にあったタオルへと手を伸ばす。
「あ」
待って。それ、私が使ったタオル!
私が手を伸ばして止めようとした瞬間。
突如、風を切って何かが飛んできたかと思うと、野々村君のお綺麗な横顔にタオルがばさりと覆い被さった。
「っ!?」
唖然とする私の一方、彼は顔に被さったタオルを取ると、口元に笑みをたたえたまま真上君の方を見る。
「……何するのかな、要」
真上君がタオルを投げつけたらしい。結構距離があるのに真上君、ナイスコントロールですね!
――って、いや、そういう話でもない。
「タオルが必要かと思ってさ」
「それはどうもありがとう。でも渡し方はいささか乱暴だね。もしかして何か恨みでもあるのかな?」
「大ありだけど?」
こういう時、空気を読まなきゃいけない立場って辛いですね!
「あ、あのね!」
二人は笑顔だが、水面下の戦いがそこはかとなく伝わってきて慌てて口を挟む。
「あの、そのタオル、私がお借りした後のものだから濡れているの。だから真上君が新しいタオルを」
「ああ、そっか、なるほど。そうだったんだね」
野々村君は投げつけられたタオルを振りながら、にっこりと笑った。
「でもこれも濡れているんだ」
「え?」
疑問を口にした私に真上君は言った。
「ああ、弘貴、悪い。それはキッチンの手拭き用だった」
あー。もうフォローできません……。
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