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真上君が新しいタオルを手渡し、再び彼がお茶の用意に戻ったことで場は収まった。
大して使っていないのに、私が過敏に反応しすぎたせいだ。悪い事しちゃったな。
「――うさん。佐藤さん」
「は、はい!」
「中学って懐かしいな。でも佐藤さんとは同じクラスになったことはないね」
イエ。一年の時、一緒でした……。
「数学の小山先生って覚えている?」
「あ、うん」
確か大学を出て数年程度で若々しく、顔も良くて女子生徒に人気のあった先生だ。
中学生と言えば少し背伸びしたい年頃で、年上の男性に憧れる時期。しかもそれが若くて男前ならなおさら。私も密かに憧れていた。
今は四十歳を越えたといったところだろうか。
「最近、二十歳も下の女性と再婚したらしいよ」
「そうなの?」
「自分の生徒だったんだって」
「えー!?」
二十歳も下の生徒に手を付けたと言うことか。――イケメン滅せよ!
「さすがに付き合ったのは彼女の高校卒業後らしいけど」
私の不快そうな表情に彼は苦笑した。
「佐藤さんは今でも中学生の時の友達と会う?」
「年賀状のやり取りぐらい」
野々村君が会話を振ってくれる。
私のことなぞほとんど覚えていないだろうに、このイケメンは会話も上手のようだ。
「要とはこうして会うけど、他は俺も会わないな。そう言えば要とはどこで再会したの?」
「三日前、電車の中で」
「……へえ。そうなんだ?」
彼は意味深な笑みを浮かべる。
少し首を傾げた時、近くで携帯電話が鳴った。
「野々村君の電話じゃない?」
「そうだね」
しかし彼は爽やかに笑うだけで、電話を取る様子も気にする様子も無い。
「で、出なくていいの、カナ?」
「可愛い女性を前に電話に出るなんて失礼なことできないよ」
むしろ出て!
歯が浮くような彼のセリフに悪い意味でざわりと鳥肌が立つ。
けれど真上君の友達だし、かろうじて引きつった笑みを浮かべてみせた。
やがて電話の相手は諦めたらしく、コール音が止んだ。
根性ナシめぇぇ(泣)
心の中で悪態をつく。
「佐藤さんはどこに勤めているの?」
「H社よ」
「A駅にある会社?」
「うん」
「俺もだよ。S社って所」
一度は耳にしたことがある一流企業だ。
「そう。偶然ね」
「うん。もしかしたら俺の方が要より先に君と再会していた可能性もあったんだね」
「え?」
魅惑的な笑みを浮かべる野々村君に私は目を見張った。
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