雨の中の帰り道

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 小雨が降り続く中、駅までの帰り道は会話が無く、沈黙が続いている。  幸いにも傘に当たる雨音のおかげで、沈黙でも間が持――やっぱり持てないか。  真上君は頑なに送ると言って譲らなかったけれど、傘だけ借りて玄関先でお別れした方が良かったかな。  とにかくこちらから声を掛けてみよう。  そう決意して口を開くと。 「あの」 「あの」  同時に言葉を発した。 「ど、どうぞ」 「いや。佐藤から」 「ううん。私は大したことじゃないから」 「じゃあ。……さっきはごめん」 「ごめん?」  野々村君を部屋に入れたことだろうか。 「俺、感じ悪かったよなと思って」 「あ。ううん! そんな」 「今日は色々あって、何か余裕無くて」  元カノさんと野々村君の襲来のことかな。  でも、そっか。私に怒っているわけじゃないんだ。 「良かった」 「え?」 「何か不愉快にさせることをしてしまったかなと思ったから」 「嫌な思いさせてごめん」 「もう気にしないで。この話はこれで終わりね」  笑みを向けると、彼もつられてふっと力が抜けたようだ。 「ありがとう。あと、さ。佐藤は今でも弘……」 「ん?」  口ごもる真上君の顔を覗き込んで促す。 「いや、その。弘貴は友達としては良い奴なんだけど、男としてはその」 「うん、そうだね。前に聞いたよ」 「あ、そうだったかな。えーとだから、気をつけた方がいいと言うか」 「彼と付き合う人は大変ね」  色んな意味で精神を削られそう。 「あの。だから――」 「あ! それよりこの傘、いつ返せばいい?」 「いや流すなよ……」  駅に併設する複合施設が見えてきて、焦って尋ねた私に真上君は少し苦笑いすると一つ息を吐いた。 「傘はビニール傘だし、他にもあるから別に返さなくてい――あ。いや、返して。絶対返してくれ!」 「は、はいっ!」  急に強く言われて思わず、びくっとした。どうやら大事な傘だったらしい。  私はコンコースに入る前にしっかり丁寧に雫を払った。 「あー、じゃなくて何言ってんだ、俺」  前髪を掻き上げて何やらぼやく彼はなぜか自己嫌悪に陥っているようだ。  とりあえず私は快速列車の時間を電光板で確認しておく。  うまいタイミングだったようで、あと数分で到着だ。 「あの、真上君。今日はありがとう。私、準急の次の快速列車に乗るからもう行くね」 「え! ちょっと待って」  我に返ったらしい彼は私の手を握りしめた。
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