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「佐藤さん!」
「え。――え!?」
午前中の仕事が終わり、浜中さんとランチしようと会社を出た時。
背後から声を掛けられて振り返ると、驚いて思わず二度見した。
「野々村君!? どうしてここに?」
スーツを着ているので、彼もまた会社の昼休みで出て来たのだろう。
先日の普段着とは違って、いかにも仕事のできるビジネスマンといった、いでたちだ。
「この辺りまで用事があってね。佐藤さん、ここの社員だって言っていたから、会えるかなと思ってちょっと寄ってみた。今からお昼?」
「そ、そうだけど」
「せっかくだし、良かったら一緒にお昼しない?」
彼はにっこり輝くような笑みを浮かべて、ランチに誘ってきた。
「え?」
眉をひそめていると浜中さんが服を引っ張ってきて、小声で尋ねてくる。
「佐藤さん、もしかして例の彼ですか? 確かに格好いい方ですけど」
「違うよ。その人の友達」
「……そうですか。良かった」
野々村君に興味を持ったのかな?
その割には声に華やかさがないけど。
「あ、佐藤さんと同じ会社の人? 良かったら君も一緒にお昼しない? こっちももう一人いるから」
「もう一人?」
私が尋ねた時、少し離れた所から、おーいという声が上がる。
「野々村、何やってるんだ? 見つかったのか?」
「ああ、立山。こっちこっち!」
野々村君は手を振って、立山と呼ばれた男性を呼び寄せた。
前髪を短く切ったスポーツ選手のような長身で、清潔感のある彼もまたスーツに身を包んでいる。たれ目の優しそうな人だ。
「お店はこっちなのか?」
「いや、昔の友達と会ってね。せっかくだから彼女たちも一緒にお昼をと思って」
「え?」
彼は訝しそうな声を出してこちらを見ると、再び野々村君に視線を戻す。
「ナンパじゃないんだろうな?」
「まさか、友達だって。ナンパなんてしたこと無いよ。逆ナンはあるけど」
肩をすくめる野々村君。
でしょうね。けど言い方が何だか腹立つぞ。
人の良さそうな立山さんはこちらに振り返ると眉を下げた。
「野々村が迷惑を掛けていませんか?」
「あ、いえ。大丈夫です」
私は手を振って否定する。
「そういうこと。じゃあ、時間も勿体ないし、歩きながら話そうか」
えーっと。
一緒にお昼を取るとは言っていないのですが……。
しかし野々村君に促されて歩き出す。
すっかり彼のペースに乗せられてしまったようだ。
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