ランチのお誘い

2/6

69人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
「佐藤さん!」 「え。――え!?」  午前中の仕事が終わり、浜中さんとランチしようと会社を出た時。  背後から声を掛けられて振り返ると、驚いて思わず二度見した。 「野々村君!? どうしてここに?」  スーツを着ているので、彼もまた会社の昼休みで出て来たのだろう。  先日の普段着とは違って、いかにも仕事のできるビジネスマンといった、いでたちだ。 「この辺りまで用事があってね。佐藤さん、ここの社員だって言っていたから、会えるかなと思ってちょっと寄ってみた。今からお昼?」 「そ、そうだけど」 「せっかくだし、良かったら一緒にお昼しない?」  彼はにっこり輝くような笑みを浮かべて、ランチに誘ってきた。 「え?」  眉をひそめていると浜中さんが服を引っ張ってきて、小声で尋ねてくる。 「佐藤さん、もしかして例の彼ですか? 確かに格好いい方ですけど」 「違うよ。その人の友達」 「……そうですか。良かった」  野々村君に興味を持ったのかな?  その割には声に華やかさがないけど。 「あ、佐藤さんと同じ会社の人? 良かったら君も一緒にお昼しない? こっちももう一人いるから」 「もう一人?」  私が尋ねた時、少し離れた所から、おーいという声が上がる。 「野々村、何やってるんだ? 見つかったのか?」 「ああ、立山。こっちこっち!」  野々村君は手を振って、立山と呼ばれた男性を呼び寄せた。  前髪を短く切ったスポーツ選手のような長身で、清潔感のある彼もまたスーツに身を包んでいる。たれ目の優しそうな人だ。 「お店はこっちなのか?」 「いや、昔の友達と会ってね。せっかくだから彼女たちも一緒にお昼をと思って」 「え?」  彼は訝しそうな声を出してこちらを見ると、再び野々村君に視線を戻す。 「ナンパじゃないんだろうな?」 「まさか、友達だって。ナンパなんてしたこと無いよ。逆ナンはあるけど」  肩をすくめる野々村君。  でしょうね。けど言い方が何だか腹立つぞ。  人の良さそうな立山さんはこちらに振り返ると眉を下げた。 「野々村が迷惑を掛けていませんか?」 「あ、いえ。大丈夫です」  私は手を振って否定する。 「そういうこと。じゃあ、時間も勿体ないし、歩きながら話そうか」  えーっと。  一緒にお昼を取るとは言っていないのですが……。  しかし野々村君に促されて歩き出す。  すっかり彼のペースに乗せられてしまったようだ。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加