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野々村君の同僚は立山信吾さんで、私たちと同じ年代らしい。道すがら紹介を受けた。
立山さんは野々村が突然すみませんと恐縮しっぱなしだった。
そして着いた先はイタリアンのお店。
「え? 美味しいラーメン屋に連れて行ってくれるんじゃなかったのか?」
立山さんは眉を下げる。
「女性がいるのにそういうわけにはいかないでしょ?」
「まあ……そう、だよな」
「明日連れて行くよ」
「分かった」
「あの。私たち、ラーメン屋さんでも構いませんよ。ね、佐藤さん」
少し肩を落とした立山さんに浜中さんが声を掛けた。
さすがモテる女の迅速なナイスフォローですね。
「ええ。大丈夫ですよ」
「と、とんでもないことです。すみません!」
「うん。佐藤さんたちは気にしないで。いつでも行けるし」
野々村君がそう続ける。が!
お前が言うな。
心の中でしかツッコまない私は実に慎み深い人間です。
「じゃあ、入るよ」
野々村君が先に店内に入ると、店員さんがすぐに近付いてきた。
「何名様でしょうか」
「四人です」
「申し訳ございません。ただいま、四名席は満席となっております。二名様ずつでございましたら、すぐにご案内いたしますが」
「それでお願いします」
お昼時で混んでいてむしろ良かったわ。
ほぼ初めての人と一緒に食事するのは精神的に辛いし。
「承知いたしました。それではお先に二名様ご案内いたします」
「じゃあ、お先に」
はいはい。どうぞどうぞ。
振り返る野々村君に頷こうと思ったその時、彼の腕が私の後ろに回り、背中を押された。
「じゃあ、佐藤さん、行こうか」
「え」
「おい、野々村!」
「立山、お先。浜中さんもお先にごめんね」
「あ……いえ」
彼がにこりと小首を傾げて謝ると、少し呆気に取られていた浜中さんは自然の流れで首を振る。
そして野々村君は戸惑う私を促して囁いた。
「ごめんね、佐藤さん。俺、初対面の人と一緒に食事をするのが苦手なんだ」
私も右に同じですよ!
と言うか、ならなぜ誘ったのだ。それに立山さんと一緒に席に着けば良かったじゃない。
口に出す前に、顔に出ていたらしく彼は苦笑いした。
「さすがに男同士でイタリアンって痛くない?」
「全然痛くないと思うよ?」
「そう? でも食事するなら、お互い目の前に華がある方がいいと思って」
彼のきらびやかな笑顔に食事前から早くも私の胃が痛くなりそうだった。
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