ランチのお誘い

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 会社への帰り道、私は浜中さんに尋ねた。 「浜中さんは野々村君が気になっていたわけではないの?」 「まさか!」  彼女はころころと笑う。  確かに彼に好意を持ったような態度ではなかったけれど。 「私は立山さんみたいな方がタイプなんです。連絡先、交換しちゃった」  戦利品のように携帯を小さく振りつつ私に見せる。 「早っ」  顔に似合わず、肉食系女子ですか! 「それより野々村さんですけどね、佐藤さんには荷が重い男性ですよ」 「はいはい。言われなくても存じておりますよ」 「そういう意味ではないです」  肩をすくめる私に浜中さんは苦笑すると、少し考えるように唇に指をやった。 「女性を手玉に取ることに長けた方みたいですから」 「なぜそう思うの?」 「佐藤さん、初めは乗り気じゃなかったですけど、食事後は楽しかったと思ったでしょ?」 「そうね」  それは素直に認める。ただ、また一緒に食事したいかと問われたら、答えは否だ。 「一体どういう方なんですか?」 「うーん」  赤信号で足を止めると、私は腕を組んで頭をひねった。  そう言われても、私も野々村君のことはほとんど知らないのだ。 「中学の同級生で、あの容姿の上、成績も優秀だったから常に女性に囲まれていたってこと。あとは彼の友達ということぐらいしか……」 「あら! 今、彼だって認めましたね!」 「彼氏じゃないからね。三人称の『彼』って意味だから」 「ええ。知ってて言ったんです」  浜中さんはお澄ましして言った。そしてふと小首を傾げる。 「あれ? そう言えば、野々村さんにも最近お会いしたんですか?」 「あ、うん。野々村君も彼の家に遊びに来たの」 「そんなこと、おっしゃっていませんでしたよ!」 「元カノ話にがっついてきたから、話しそびれちゃった」  肩をすくめる私に彼女は少し咳払いし、また首を傾げた。 「ん? 今、彼の家に来たって言いました?」 「うん」 「佐藤さんは彼の家に入ったんですか!?」 「言わなかった? 傘――」 「言いませんでしたよぉ!」  何で大事なこと言わないかなぁと頬を膨らませる浜中さんに苦笑いする。  可愛い子はどんな表情でも可愛いな。 「あ。青よ、行きましょう」 「……はい。まあ、それは後でまたがっつり聞くとして。一つ佐藤さんに助言します」  促す私に彼女は表情を真剣なものにした。 「野々村さんとはあまり接触しない方がいいと思います」
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