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「――に到着いたします」
……ん。はっ!
車内のアナウンスに気付き、慌てて目を開ける。
電車が丁度駅に到着し、振り返るとそこはまだ自分の駅を乗り越してはいなかった。
ああ、良かった。
今日は業務が立て込んで、午後から大変だった。
残業で疲れていたし、椅子に座れたこともあって、うっかりうたた寝してしまったようだ。
電車の中でメッセージを確認しようと思っていたのに、携帯を握ったまま眠ってしまうとは……。
とりあえず携帯を落とさずに済んで良かった。
スリープを解除して携帯画面を見ると、新着メッセージの文字が表示されていて、どきっとしてしまう。
ここのところ、通知で心が逸るようになってしまった。
目も覚めたし、早く確認したいところだが、あと一駅で乗り換えがあって慌ただしい。
家に帰ってから返信することにして私は鞄にしまった。
「ただいま」
「おー、姉ちゃん、お帰り」
「お帰り」
リビングへの扉を開けて顔を出すと、すでに食事を済ませたらしい弟と父親が返事し、母はタオルで手を拭きながら近寄って来た。
「お帰り、遅かったわね」
「うん。お腹空いた」
母には会社を出た時に遅くなる旨を伝えておいた。
「お疲れ様。着替えてらっしゃい」
「はーい」
自分の部屋に入り、素早く着替えを済ますとベッドに腰掛けて携帯を取り出す。そして確認すると真上君からのメッセージが届いていることに頬が緩んだ。
ふと我に返り、誰も見ていないのに思わず咳払いする。
『お疲れ様です』
メッセージを送信するとすぐに返信があった。
『今から帰るところ? 遅いな』
『ごめんね。今日は電車で眠っちゃって。今はもう家です』
『そっか。お疲れ様』
そうだ。今日、野々村君に会ったことを伝えておこう。
「えーっと。今日、野々村君が私の会社に来て、一緒にランチしました。――送信っと」
トンとタップするや否や真上君発信の着信音が響いて、驚きで落としてしまった。
「わわわっ」
足下に落ちた携帯に手を伸ばして急いで拾おうとする間も着信音が鳴り響く。
いつもと同じ着信音のはずなのに、相手が苛立っているように聞こえるのはなぜだろう。
「ご、ごめんなさい。今、携帯落と――」
「弘貴が会社に来たって!? 何で? 何の用? 何もされてないか!?」
立て続けに投げかけられる真上君からの質問に対応しかねて私は言葉を失った。
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