会いたい

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 な、何もされてないかって。野々村君。あなた、どれだけ親友からの信用がないのですか……。  苦笑していると。 「佐藤! 聞いている!?」   沈黙していた私に不安を覚えたようだ。彼の剣幕に改めて押されながら答える。 「あ、は、はい! 聞いています。え、えーっとあの」 「何!?」 「ランチを一緒にしただけ、よ?」 「ランチを?」 「一緒にしただけ」  疑問系の真上君の言葉に続いて、ゆっくりと繰り返してみた。  すると彼も焦りすぎていたことに気付いたのだろうか。一瞬沈黙の後、言った。 「……それで?」 「それでって言うか、ランチしただけです、ケド」  他に何か変なこと打たなかったよね? 「そうか。弘貴一人で佐藤の会社に来たのか?」 「ううん。同僚の方と一緒だった。探していたお店がうちの会社と近かったみたいよ。あと、側にいた私の同僚も誘われたの」  お店に向かったのは確かに四人。  けれどテーブルは二組に分かれ、おまけに野々村君と相席になったわけだけど、そこまでは言わなくていいかな。特別、彼に何かをされたわけでもないし。  電話の様子を見ていると、言えばむしろ余計な心配をかけそうだ。 「へぇ」  何を考えているのか分からない声で彼は呟く。  おそらく顔を見ても分からないのだろうけれど。  そして再び黙り込む真上君。  私から声を掛けようかと思ったが、一瞬早く彼が言葉を発した。 「佐藤。悪いんだけど明日、会社の帰りが遅くなかったら俺の駅で降りてくれないか?」 「え?」 「……佐藤に会いたいんだ」 「っ!?」  直球過ぎる言葉と耳に直に入る低く掠れた真上君の声に、危うく携帯を落とすところだった。  酷い。何これ、酷い。……酷い不意打ちだ。  一気に熱が頬に集まってくるのが分かった。  こんな顔、見られなくて良かったと思う。  きっと耳まで真っ赤になっていて、恥ずかしいような、それでいて冷静になるために怒っているような顔をしているはずだから。 「佐藤?」 「うっ。うん。承知しましたです!」  返事を促す真上君に何とかそう答えると、彼は電話の奥で少し笑ったようだ。  と、その時、部屋の扉がノックされた。  おそらく私が部屋から出てくるのが遅くて、母が呼びに来たのだろう。 「里香ぁ?」 「真上君、ちょっと待ってね」 「ああ」  私は携帯を耳元から離して送話口を押さえると、扉越しに母の呼びかけに応えた。
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