会いたい

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「は、はい!」 「弘貴が佐藤の会社に来たって!?」  真上君の迫力に気圧されていると、彼は少し瞳の色を緩め、肩の手を下ろした。 「う、うん。電話の通り、お店を探してこっちの方に来たみたい」 「弘貴の会社と佐藤の会社ってそんなに近いの?」 「徒歩十分くらいはかかるかな」 「そうか」  真上君は何やら考え込む。 「それで一緒に食事したんだ?」 「うん。断るきっかけを失って」  そういう奴だよなと彼はぼやくと、さらに尋ねてくる。 「……楽しかった?」 「ん?」 「弘貴と食事して楽しかった?」  そんなことないよと答えるべきか。あるいは正直に答えるべきか。  真上君は黙ってこちらの出方を待つ。  とりあえず正直に頷いてみる。 「た、のしかった」 「だよな。……うん、知ってた」  彼は腰に両手を当てて、がくりと項垂れた。  何だか急に真上君が小さく見え、慌ててフォローを試みる。 「で、でも、真上君との方がもっと!」  すると顔を上げて、にっと笑う真上君。 「もっと何?」 「うっ」  嵌められた。常に私よりも一歩も二歩も先回りされているようで悔しい。  どうしてこんなにも彼は強いのかな。 「ねえ、言って。佐藤」  期待を込めた笑みで甘くねだる真上君にどうして勝てようか。 「た、楽しいです」 「誰と一緒の方が?」 「分かるーー」  あ、そういえば、前回そう答えて迫られた。その前に先手を打たねば! 「真上君! 真上君と一緒にいる方が楽しい!」  拳を作って一気に言い切った直後、はっと我に返る。  う、うわぁぁ!? 何言ってるんだ、私。  のぼせた顔を抱えて悶絶する。  どうせ、こんな私を見て真上君は笑っているんだろうと手の間からちらりと見た。  すると彼は頬の辺りに手を当て、視線を逸らしていた。  ……人に言わせておいてその態度は何だコラ。  下から睨み付けるように見ていると、彼が慌てて視線を戻した。 「その、若干言わせた感があるけど……すごく嬉しい」  照れた表情で笑うその破壊力は最強。  今度は私が視線を逸らす番だ。 「佐藤、顔真っ赤」 「な、夏の名残のせいよ」 「佐藤の残暑は長いな」  真上君は苦笑していたが、ふと視線を上げると何かに気付いたようだ。 「あ! ごめん。快速列車、発車したみたいだ」 「大丈夫。次の快速列車に乗るから」 「うん、ありがとう」  もう少し一緒にいられるんだと笑みが零れた。
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