恋の始まりは悩みの始まり?

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「強情ですね。分かりました。だったら、上はオフショルダーか胸元開いたニット系にして彼を悩殺しちゃいましょう」 「ノ、ノーサツ致しません! そもそも冷え症だからそれでなくても着ないわよ」 「冷え症ごときが何ですか!」  彼女は拳を作ってテーブルをドンと叩き、こちらを睨み付けてきた。  可愛い子の怒り顔もやっぱり可愛い。 「お洒落のためにはそれぐらい我慢しなきゃ」 「あ、あのね……私は男性ウケを良くしようとしているわけじゃないの。旧友に会うだけなんだから。いい? とにかく私は頑張りたくないの」 「悩んでいる時点で、もう既に頑張っていますよ」 「うっ。そ、それはいいのよ。相手に見せなければ」  ちょっと自分でも何を言っているのか分かりません。 「ここで意地を張るのはいいですけど、それをその彼に見せちゃ駄目ですよ? ツンデレも度を過ぎれば単なるウザい人ですからね」 「スミマセン……」  三歳も下の子に説教される私って一体。  肩を落とす私に浜中さんは小首を傾げた。 「あ。もしかして佐藤さん、男性と付き合った経験ありません?」  直後、強く拳を固めた。 「そ、そんなわけ、ないじゃん!」 「無いと思ったぁ!」 「今だ。今こそ肯定する時だ!」 「佐藤さん可愛いのに意外です」  にこにこ笑う彼女に私は大きく息を吐いた。 「あなたみたいに豊富ではないのは確か。男性が行列していて彼氏が切れる期間がない浜中さんからすれば、こんなことで悩んでいる私なんて馬鹿馬鹿しくて面白いんでしょうけど」 「大袈裟です。私、今フリーだし、行列とか無い無い」 「そうなの?」 「ええ。好きな人と別れたら、私だって落ち込みます。すぐに次の人というわけにはいきません。それにね。一生懸命、人と向き合おうとしている人を馬鹿になんてしませんよ。微笑ましくは思いますけどね」  そっか。噂に惑わされていたのね。悪いこと言っちゃった。 「勝手なこと言ってごめんね」 「いいえ」  慣れていますしと苦笑いする浜中さん。  社内の噂話に疎い私でも聞いたことがある話だ。色んな所で有りもしない噂されては、女性から妬まれているのかもしれない。  表情が硬くなった私に気付いた彼女は焦ったように手を振った。 「あ、あの大丈夫ですよ。私は昔から誤解されやすい質で、佐藤さんとこういう話ができると思わなかったから嬉しかったです」  そう言って彼女は頬を赤らめた。
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