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逃げようとしていたのがバレた気分になって、びくっと過敏に反応してしまう。
恐る恐る振り返ると、真上君は言葉も無く、ただ目を見開いてこちらを見ている。
何だろ。……服が絶望的に似合ってないとか? お家を訪問するのに相応しくない格好だったとか?
はっ。まさか化粧、濃い!?
色々な考えに及んで、血の気が引いてくる。
慣れないオシャレはするものじゃない(泣)
「こんにちは」
心の中で泣きながら口にしたその時、彼は我に返ったように笑みを作った。そして耳元に手を当てて、少し顔を逸らす。
「あー、今日は戦闘服なんだ?」
そう言えば前に戦闘服はワンピースだって言ったっけ。――って、ますます勝負服みたいになっているじゃない!
否定しようとわたわた手を振る。
「あ、こ、これはね、そういう意味じゃ」
「似合ってる」
「え」
逸らされていた視線が戻った彼の頬は薄く染まっている。
「似合っているよ。凄く……可愛い」
胸に直撃して激しく動揺すると共に目を見開いて固まってしまった。
咄嗟に言葉が出ない。こんな時、イイ女ならきっと気の利いたセリフを言えるのだろう。
けれど私は。
「あ、あり。がと、です」
視線を彷徨わせた後、耳まで赤くなっているだろう顔を伏せてお礼を言うのがやっとだった。
しかし、せめて手土産のケーキを死守したところだけは褒め称えてほしい……。
「いつも急にごめん」
ある種の気まずさのまま黙ったまま歩いていたが、沈黙がさらに気まずさを生むと感じて口を開こうとした時、真上君が先に口を開いた。
「そ、そんなことないよ。こちらこそ今日はありがとう。――あ、そうだ。今日はご家族の方がいらっしゃるんだよね?」
「ああ、大丈夫」
「うん? あのね、今更だけどご家族は何人?」
一応焼き菓子も買っておいたけど、ケーキが本当に足りるのか不安になってきた。
手提げ袋に視線を落とす。
「そっちか」
「そっちって、どっち?」
「何でもない……。俺を入れて五人」
良かった。それなら大丈夫ね。
「気を遣わなくていいのに」
「そういうわけにもいかないでしょ。でもやっぱり、事前に聞いておくべきだったね」
「――あ、ここなんだ。行こう」
話しながら歩いているといつの間にか着いたようだ。
「ただいま」
真上君が鍵を回してドアを開けると、ずらりとご家族が玄関に揃っていて私は驚きで腰が引けた。
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