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「お帰りなさい、要」
「待ちわびたぞ、息子よ」
「お帰り、兄さん」
真上家では長男が帰って来るとこういう出迎え方なのかと思ったが、ドン引く彼を見ると日常茶飯事ではないらしい。
「あなたが佐藤さんね」
「は、はい。こんにちは。佐藤里香と申します。本日はお邪魔いたします。生ものですので冷蔵庫に入れていただければ」
私は慌てて挨拶し、手土産のケーキをお母様にお渡しする。
「まあ。お気遣いいただいて、ありがとう。改めまして要の母です。よろしくね」
おっとり柔らかな笑みを浮かべる可愛らしいお母様。
「父です」
「弟の誉です」
それ続けと言わんばかりに、次々と挨拶されて頭を下げる。
真上君はどうやらお父様似のようだ。彼が歳を取ったらこんな渋さになるのだろうなと思う。
さらに彼の弟君に視線を移した。すると――。
な、何という美青年!
若さ特有の瑞々しい透明感と儚さを伴った容貌に、思わず目を丸くしてしまう。
そんな私に気付いた真上君は小さく言った。
「どう? 惚れ直した?」
コヤツはなに珍妙なことを言っているのだと彼を仰ぎ見る。
「誉は少し前の俺の姿だから」
「そ、そうなの?」
その言葉にかなり怯んでいると、聞こえていたらしいお母様がくすくすと笑った。
「嘘はいけないわ。あなたは父親似だし、誉は私似でしょ」
まあ、どちらのご子息様も男前であることには変わりありますまい。
一方、彼は言わなきゃ分からないのにと肩をすくめる。
「あ。ところで風太は?」
フータ君?
「父さんと散歩中だけど、もう間もなく帰って来るはずだ」
「そっか」
「そんなに風太が恋しかったのか、要」
お父様が笑うと、真上君が口を開くより前にお母様が答えた。
「あなた違うのよ。里香さんが風太に会いたいんですって」
「そうだったのか」
そしてお父様は腕を組むとふふんと鼻で笑った。
「何だ? 風太をダシにしないと女性も家に呼べないのか。まだまだだなぁ、おい」
「あなたったら。本人を前に悪いわよー」
「兄さんのヘタレ」
家族からの散々な弄られ方に真上君が苦笑いしていたその時、玄関の扉が開かれた。
フータ君のご帰宅だ。彼も真上君の存在に気付いたのだろう。嬉しそうに声を上げる。
「わふっ!」
「風太!」
真上君は腰を落とし、両手を広げるとフータ君は地面を蹴って彼の腕の中に飛び込……まず、私の足元に絡みついた。
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