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「フータ君って、やっぱり風太君だったんだ!」
「わふっ」
絡みついてくる風太君に私は屈み込んで彼の頭を撫でていると、一緒にお散歩に行っていたというお祖父様が続いて入って来られた。
私は立ち上がってお祖父様に頭を下げる。
「こんにちは」
「おや、お嬢さんじゃないですか」
意外そうに目を丸くされた。
やはりいつもお会いする方だった。
「え? 二人は知り合いだったのか?」
驚きの声で尋ねる真上君に私は振り返った。
「そうなの。前に話していた方だったの」
「へぇ。すごい偶然」
「本当ね。真上君の家の子、子犬だと勘違いしていた」
「ああ、ごめん。あれは俺が家を出る一年くらい前の写真だから」
「それでお嬢さん、今日はどうしてここに? 要の恋人だったのかい?」
お祖父様の問いに視線を戻す。
「佐藤里香と申します。いえ、本日は要さんにお誘いいただいて、風太君に会いに参りました」
「そうだったのかい」
そう言って微笑むお祖父様がどこか、笑いをこらえているようにも見えた。
首を傾げていると背後でもかすかな笑い声が聞こえる。
振り返ると不愉快そうな真上君を除いて、ご家族全員が笑っていた。
――はっ、そうか!
未だ足下に飛びついてくる風太君の行動でようやく気付いた。
「ご、ごめん。違うの。私、ほら、風太君のおやつ持って来たからだと思う」
鞄からおやつを取り出して真上君に押しつけると、彼は戸惑いながら受け取った。
「え、あ。どうも……」
さらにご家族の笑いが深まった気がしたが、とりあえず前を向いて今度は私がお祖父様に疑問をぶつけてみる。
「あの。最近、お会いしませんが、お散歩ルートを変えられたのですか?」
「いやぁ。お恥ずかしい話ながらね。ぎっくり腰になってしまって、ここずっと孫の誉に散歩をお願いしていたんだよ」
お祖父様は照れ笑いなさった。すると背後から弟君が補足してくれる。
「あ、すみません。俺は大学の通学の関係で、少し散歩の時間を早めていたんです」
「そうだったんですか」
「だけど腰も治りましたし、また私が散歩に行くこととなりますので、見かけましたらよろしくお願いしますな」
「こちらこそお願いいたします」
やった!
また風太君と会えるらしい。
「さあさあ、里香さん、玄関先で何ですからお上がりになって」
ちらっと真上君を見ると彼は頷いた。
「それでは、お邪魔いたします」
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