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真上君のお部屋に案内され、少しドキドキした気持ちで入る。
先日、マンションにはお邪魔させてもらったが、あの時はあれよあれよと言う間に誘導された形だったから、ドキドキ感よりも戸惑いの方が強かった。
実家の洋室の部屋は机やオーディオや小型の箪笥、ベッドなど必要最低限なものだけが配置されていて、空間は大きく取られている。
一人住まいの部屋同様、シンプルでお洒落な部屋だ。
真上君が戻って来る前にお母様が一通りのお掃除はしたのだろうけど、元々整頓好きではあるのだろう。
ただ一つ、この部屋にはそぐわない木目調が美しいテーブルと高級そうな厚みのある座布団が置かれてあるが、もしかするとこれは私の為に急遽部屋に入れられた物かもしれない。
「どうぞ座って」
「ありがとう」
座布団を勧められて座ると、テーブル右隣に座った彼は部屋まで付いて来た風太君を自分の元に引き寄せた。
「風太、さっきはよくもこの俺を差し置いて真っ先に佐藤に飛びついてくれたよな。いい度胸じゃないか」
そう言いながら風太君の頬の皮を引っ張って、みよーんと伸ばす。
しかし信頼関係があるのだろう。風太君もその状況を嫌がらず、甘んじて受け入れている。
か、可愛い!
妬まし、いや、羨ましく見ているとそれに気付いた真上君が風太君を解放し、先程渡した風太君のおやつを私に渡してくれた。
「ほら、風太。おやつをくれるってさ」
何という神対応(落涙)
風太君はおやつを手に持つ私に尻尾フリフリ、媚びを売りに来てくれる。
「可愛いぃ。――好き。風太君」
そして彼のふさふさの毛の中に顔を埋めながら抱きしめる。
すると情けないような真上君の声が降ってきた。
「風太、ドヤ顔するの、止めてくれ……」
ドヤ顔? ――あ!
顔を上げると鞄から携帯を取り出す。
「風太君の写真を撮ってもいい? 嫌がらない?」
「いいよ。大丈夫」
「ありがと」
そして風太君に写真を向けて、シャッターを切るのだが。
「風太君、こっち向いて」
声を掛けてみても、せわしなく動いて、なかなか良いショットを撮らせてもらえない。
「風太、今日は落ち着きがないな」
「そうだ。真上君、風太君を抱いてくれないかな?」
「ああ、分かった」
しっかり抱きしめてくれて、ようやく風太君はこちらを向いてくれる。
よし、良い感じだ。撮るぞ。
その時、ふと良案が頭に浮かんだ。
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