真上家へお邪魔する

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 そうだ! これを機に真上君の写真も撮ればいいんじゃない。そうすれば浜中さんとの約束が果たされる。  隠し撮り気分で卑怯な気もするが、この際、良心は忘れよう。  心の中でほくそ笑み、携帯を構え直した。 「はーい。撮りますよ。笑って笑って」 「……風太、笑えってさ。無理難題吹っかけてくるよな?」  苦笑して風太君に話しかける真上君。  笑ってと言っているのはあなたの方ですよとは言えない。  だけど普通にしていても男前だから、別に笑顔じゃなくてもいいか。  そして何枚か連写した後、私は携帯から顔を上げた。 「真上君、ありがとう」 「うまく撮れた? 見せて」  そう言われて途端にびくりと肩が跳ね上がった。  後半、ほとんど風太君そっちのけで真上君の方ばかり焦点を合わせている写真となっていたからだ。  確認していないが、もしかすると風太君が見切れている可能性だってある。 「ううん、全然綺麗に撮れなかった! とっても人様にお見せできるレベルじゃない!」  拳を作って力説すると彼はドン引きした。 「そ、そっか。――あ、じゃあ、俺が撮るよ」 「え?」 「風太、抱っこして」  そう言って風太君を私に寄せると、自身は携帯を手に取ってシャッターを切り出した。 「あ、あの、真上君?」  自意識過剰かもしれない。  けれど激しく嫌な予感がして、恐る恐る尋ねてみる。 「んー、何?」 「角度が……。もっと下に向けるべきじゃないの、カナ」 「大丈夫、大丈夫。風太も入っているって」 「『も』って何? わ、私を撮っているの!?」 「うん、可愛い」 「なっ。か、勝手に撮るなんて。消して!」  真上君の言葉に一瞬怯んだ後、彼の携帯に手を伸ばす。 「ちょっと佐藤、待っ――わっ」 「きゃ!?」  ふたり、どさりと倒れ込んだ。  と、その時。  真上君の部屋の扉がコンコンと鳴る。そして入るわねというお母様の声がして、返事を待たずして扉が開放された。 「まあ」  こちらを見たお母様はくすりと笑う。 「大変。要、襲われているわ」 「何、要が襲われているだと!? けしからん! 俺にも見せろー」  お母様の声を聞きつけたお父様が駆けてきた。  何を期待されたのか考えたくないが。  目に入った光景は――。  単に、じゃれついた風太君に乗りかかられて倒れた真上君の姿だっただろう。 「ちっ。……つまらん」  現実はこんなものですよ、お父様。
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