スイーツ男子にご注意

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 気を取り直して、お母様が運んで来て下さったケーキとお茶を頂く。  風太君はお母様によって連れ出された。  くぅんと喉を鳴らしていたけど、ケーキはあげられないもんね。  お皿には私が購入したロールケーキとお家でご用意して下さったティラミスが載っている。  美味しそうだけど太るな。  少しためらっていると、真上君はまずロールケーキに手を付けた。 「ロールケーキ、すごく美味しい。ありがとう」  そんなキラキラした笑顔で言われたら、こちらもにこやかに応じるしかないじゃないですか。 「どうしてロールケーキが私の方だと分かったの?」 「俺が実家に帰る時、いつもティラミスを用意してくれているんだ」 「へぇ。そうなんだね」  ティラミスが好きなのかな。何だか可愛いな。  私はその流れでティラミスから頂く。 「ティラミスもとっても美味しい」 「そう、良かった」  それはまるで、ほろ苦甘く恋の味。……うん、私、絶対頭おかしい。  咳払いした後、話を振った。 「本当に甘い物好きなんだね。ご家族皆さん?」 「いや、父親と弟はそこまでではないかな」 「誉君の雰囲気の方がスイーツ男子って感じなのにね」  すると真上君は眉をぴくりと上げた。  ……あれ? なぜ不愉快そうな表情を浮かべているのでしょうか。スイーツ男子枠を取られたせい? 「あ、やっぱりスイーツ男子枠は真――」 「何で誉だけ名前呼びなんだ?」 「え」 「俺は名字呼びなのに何で誉だけ名前?」  身を乗り出して問い詰めてくる真上君に腰が引ける。 「同じ真上君だ、だし?」 「俺も名前で呼んで」  艶のある真上君の声に気持ちがかき乱される。  何で男性なのに私よりはるかに色気があるのですか。 「む、無理」 「さっきは名前で言ってくれただろ」 「言った……けど」  あれは『要さん』という単語であって、名前として意識していないから。  彼は少し怯んだ私の肩に手を置いて引き寄せると耳元に低く囁いた。 「要って呼んで――里香」  どくり。  心臓の鼓動が静寂な部屋に響き渡る気すらした。  言葉を口に出したら震えた声になりそうな気がして、ぐっと押し黙っていると。 「……なんてね」  真上君は明るい口調でそう言って私から身を引くと両手を挙げた。  私はほっと息を吐く。 「家族がいるのにこれ以上は手を出さないよ」  家族がいなければ手を出すような言い方は止めて下さい……。
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