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「おっ。可愛い」
彼女のはにかみの笑顔にしばし見入ってしまう。
これがモテる女性というものか。女の私でも守ってあげたい気持ちになる。メモメモ。――って、私には到底真似できないけど。
「前から可愛かったけど、今日は特に可愛いね」
「紅茶なのに酔っ払いました!?」
「何かあったら私に言いなさいね。微力かもしれないけど力になるから」
照れる浜中さんに構わず、テーブルに置かれた彼女の手の上に自分の手を重ねて握ると先輩風を吹かせた。
「わ、私を口説きにかかってどうするんですか!」
彼女はさらに頬を赤く染めながら睨んできた。そして一つ咳払いする。
「とにかく。相談して下さった以上、お洒落に関しては私の方が先輩なんですからね。ちゃんとアドバイス聞いて下さいよねっ」
「うん。まあ、適度に流すね」
「ん? 何かおっしゃいましたか?」
浜中さんの可愛い顔らしからぬ、眉を上げる彼女の笑みに若干引きつりながら笑みを返した。
「い、いえ。ありがとうって」
「まあ、とんでもないことです。佐藤さんにはいつもお世話になっていますから」
「そ、そう?」
「というわけで明日のお昼はランチを簡単に済ませて、服を見に行きましょうね!」
「お手柔らかにお願いいたします……」
気合いの入った彼女に少し不安を覚えた私だった。
本日の業務が終わり、帰宅のための電車へと乗り込んだ。
ラッキー。今日は座れたわ。
身体が椅子に落ち着くと、何となく真上君が乗っていないかなと辺りを見回してしまう自分がいる。
しかし思えば帰りの時間はいつもバラバラだし、社会人になってから昨日初めて彼と再会したのだから、そうそう会うわけがないことに気付いた。
ま、まあ良かったよ。椅子に座れた時、頭を垂れて寝ていた時もあったし。
車内は腕を組んで眠っている人や携帯を触っている人が大半で、話し声はほとんど聞こえない。
携帯が普及してからというもの、車内で皆一様に携帯を触っている姿は異様にも思えるが、私も例に漏れず携帯を取り出す。そしてメッセージアプリを確認すると、真上君からメッセージが来ていた。
『お疲れ様。昨日は楽しかった』
短い言葉だけど、思わず笑みが零れる。
……はっ。ニヤニヤしていたら変に思われるかも。
こほんと一つ咳払いして、こっそり辺りを見回すが、誰一人私のことに気を向ける人はいない。
私は再び携帯に集中した。
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