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真上君は黙り込んだが、そっぽを向いた頬に彼の視線がやたらと突き刺さってくる。
いつまでも視線を外していると何だか負けた気分になるので、彼に顔を向け、引きつった笑みを浮かべると話を戻してみた。
「え、えーと。じゃあ、誰と勘違いしたんだろうね」
「告白された後、俺がどうしたか聞きたい?」
人がせっかく話を戻したのに無にするとは!
聞いてみたいかですって?
そりゃあ、そうサ!
……と声を大にしては言えないけれども。かと言って、そうでもないと意地を張るのもどうか。
答えに詰まる私に真上君はにじり寄って来た。
「佐藤は俺に興味がある?」
前にも同じようなことを言われたっけ。
「俺に興味があるなら教える。答えはイエスかノーだけでいいよ。どっち」
笑みすら無く、どっちと言いながら迫る言動には、選択肢など提示されていないことに彼は気づいているだろうか。
こくんと息を呑んで私は答えた。
「――ス」
「え?」
あまりにも私の声が小声すぎて、本気で耳に届かなかったらしい。彼は首を傾げた。
「イエスですってば。話に興味がある。教えて下さい」
私は半分ヤケで膨れっ面になって、ズルい答え方をしたけれど、真上君はふっと表情を緩めて笑った。
何笑っているのよ、もう。
「あー、ヤバい。抱きしめて良い?」
「普通に悪いです」
お尻で後ずさって、腕を伸ばした真上君から距離を取る。
「つれないな」
しっしと手で払って、苦笑する彼を元の場所に戻すと自身もまたテーブルに近付く。そしてカップを取ると渇いた喉を潤した。
「それでどうなんですか」
言わせた分だけ、話してもらおうじゃないの。
「本当はそんなに愉快な話じゃないから話したくない」
「ぐーで殴るね?」
「冗談だって」
にっこり笑って拳を作ると、彼は両手を挙げた。
「夏休みに丁度成長期に入ってさ、運搬系のバイトをしていたこともあって、夏休み明けたら痩せて急に周りの目が変わったんだよ。佐藤花穂もそうだったってわけ」
なるほど。手の平返したか。
「それぐらいで断ったの? 器が小さいゾ」
「断ってない」
「断ってないんかい!」
あー。急にがっかり感が。
すぐ直前まで佐藤花穂さんを庇うような大人な発言したけど撤回する。自分の器の方が小さかった。
「でも……佐藤の言うとおり、器が小さかったな、あの時の俺は」
真上君はそう言って自嘲した。
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