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「夏休み前までは弘貴に好意を見せて、側にいる俺には疎むような瞳を向けていたのに、休み明けたら打って変わった態度で。好意を持てるはずもないのに付き合って、しばらくしたら飽きたと言って振った。最低だろ、俺」
なるほど。高校生だった彼なりの仕返しだったのかもしれない。
しかし同情なんて寄せてやらない。そんなの彼にとって罪悪感を拭う手立てにもならない。
「うん。最低最悪。真上君、滅べ!」
「俺、ピンポイント!?」
「イケメン、十把一絡げにするのは失礼でしょう」
「この間は俺も一緒にしていただろ」
「私も成長したのね」
腕を組んでうんうんと頷いてみせると、真上君は理不尽だと言って諦めたように眉を下げた。
「とにかく。それからは反省して、誠実に付き合ってきたつもりだから勘弁してくれ」
「そうね。深海一万メートルよりも深く反省し、標高八千メートルより高く罪を償ってきたというなら許してやらんこともない」
私が許す許さないの問題でもない気がするけど。
「そこまで!?」
目を丸くした真上君だったが、ふっと息を吐く。
「正直、否定を期待して話した部分があったんだと思う。だけど佐藤に自分は最低だって肯定されて、良かったと言ったらおかしいんだけど、そんな気分になった」
「そう。真上君はドMと。メモメモ」
「違う、そっちじゃない」
肩を落とす真上君に、さらに追い打ちを掛けてみようと思う。
「負の連鎖っていうか、その初恋をこじらせちゃったせいで、その後の交際もうまくいかなかったんじゃない? 無意識にそういう女性を選んでしまっているとか」
前に会った元カノ、愛花さんは自己愛が強い人だった気がする。きっと真上君よりも彼と付き合っている自分が好きだったのだろう。
と、そこまで言うのは酷かな。そもそも私が恋愛豊富のように上から目線で言うのはどうよ。
すると彼はむっと眉を上げた。
後半は口に出していないはずなのに。
「それは初恋じゃない。でも実際、初恋をこじらせているのかもな。だから佐藤みたいな人を避けて付き合ってきたのかもしれない」
佐藤花穂さんみたいな人を『選んで』の間違いかな?
まあ、自己完結したみたいだし、些細な間違いをいちいち指摘することもない。
とりあえず納得できたなら、めでたし、めでたし。
「だけどこれからはもう逃げない」
……どう自己完結したらこちらに迫ってくるのですか?
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