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キッシュの有名なお店にやって来た。以前からお店の前を通る度に入りたいなと思っていた所だ。
店内は自然光をたっぷり取り入れた明るい空間となっている。
「キッシュだけど、大丈夫?」
「――うん。大丈夫だよ」
野々村君は一拍置いて笑みで応えた。
男性にキッシュ人気は無いと聞いていたが、彼もそうだったらしい。悪かったなと思いながらも、注文を取りに来た店員さんにお勧めキッシュを二人分注文する。
そして店員さんが去って行くと野々村君が話を切り出した。
「スイーツカフェと同じく女性が多いね」
「そうね。ごめんね。苦手だった?」
「得意じゃないけど、こういった店を好む女性が多くて、行き慣れているから大丈夫」
ほぉ。
意外とはっきり物を言う人なんだ。
「佐藤さんも要とこういう所によく来るの?」
「ううん」
そもそも回数としたら、そんなに会っていないし。
「でも俺に付いて来たってことは、要と付き合っているということかな。もちろん恋人として」
「ううん。付き合ってない」
「随分あっさり言うんだね」
野々村君は苦笑する。
あっさり言っても、こってり言っても答えは同じだと思いますよ。
「だけど要のことを知りたいんだ?」
だから付いて来たの。時は金なりよ。さっさとお言い。
しかし口には出さず、にっこり笑って流すだけの度量はある。
「要は甘い物好きなんだ」
横でデザートが運ばれて行くのが目に入ったからだろうか。彼はそう言った。
「そうみたいね」
「そのせいかな。要が付き合ってきた女性って皆、甘くてふわふわした傾向にあるんだよね」
前に会った元カノさんは確かに可愛らしい女性だった。
「だからもし君と付き合っているのなら意外だなと」
「意外」
「うん。佐藤さんは要の好みから外れるなと思って」
「そう」
何が言いたいのだろうか。
常に笑顔の彼から意図を読み取るのは難しい。
「もしかして名前が『佐藤』だからかな」
さとう、砂糖ってことですか。親父ギャクにしても酷すぎるセンスの無さ。顔が良くてもこれは引く。
しかしそこは大人の対応。
スルーするのもお気の毒だからとりあえず笑んであげよう。
「野々村君こそ意外に面白いのね」
「佐藤さん、要の中学の頃のことを覚えている?」
無視するなんて酷いっ。
せっかく廃品回収してリサイクルまでしてあげたというのに恩知らずめ。
私は小さく息を吐いた。
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