渡された名刺は

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 自分が要領悪いのも、可愛げがないのも自覚していますよ。  だけど、人から言われるとやっぱりむかつきますね。相手が笑みだとなおさら。  が、図星なので諦めて頷いた。 「あー、そうね。その通りです」 「そうだよね。君は馬鹿正直な分、世渡りが下手な感じがする」  追い打ちをかけなくてよい。 「佐藤さんは『女』を売りにしないよね。不器用だと思うけど、俺としてはそんな女の子の方が可愛いと思うよ」  口ではそう言っているものの、決して褒められているわけではないようだ。 「……野々村君は世渡りが上手そうね」 「男は特に世渡りが上手じゃないと駄目だよ?」 「そう」 「でも君は変わらないで。そのままの君の方が魅力的だから」  何だろう。この酷い違和感。  言葉だけは口説き文句にも聞こえるのに寒気がするのは。 「あの、野々」 「佐藤さん、同級生の佐藤花穂さんって知ってる?」  随分とタイムリーな名前が出た。 「うん。可愛い子だった」 「高校生の時、要に告白したんだよ」  真上君に聞いて知っている。 「俺もね、中学の時に告白された」  それも知っている。 「で、付き合った」  それは初耳です!  って言うか、野々村君、女の子と付き合っていたのね。噂すら立たなかった気がしたけど。  あれ? 真上君には伝えていなかったのか。彼は振られたみたいだって言っていたもんね。 「知らなかった。噂になりそうなのに」 「内緒で付き合っていたんだ」 「そう」  野々村君は皆の王子様みたいなものだったし、噂になれば付き合う女性が嫌な目に遭うかもしれないと思ったのかな。意外に配慮ができる人なのかも。  私は喉を潤そうとカップを手に取った。 「他にも同時に付き合っていたから」  な、何ですと!?  突如、爆弾発言を落としてくれた。  が、セーフ。カップに口をつける前で良かった。あやうく漫画みたいに含んだお茶を吹き出すところだった。  しかし中学生から真性軟派男だったとは。  衝撃の事実に襲われて、カップを持つ手が震えて止まりませんけど! 「そ、そうなんだー」  視線をお茶に落として、かろうじて何とか言ってみせた。 「びっくりした?」  楽しげな野々村君の声にイライラして顔を上げる。  何で楽しそうなんだ。分かっていたけど、真上君と違って反省の色どころか、今も罪悪感すら抱いていないのだろう。  野々村君、散れ去ね!  物理的に。
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