69人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
『お疲れさま。こちらこそ昨日は楽しかったです』
楽しかったと言うか……う、うん、楽しかったでいいか。
えいやと送信すると瞬く間に返信が来た。
『もう家に帰ったのか?』
速っ。彼こそもう仕事が終わって家にいるのだろうか。
『まだ。電車の中』
『そうか。土曜日の待ち合わせだけど、本当に俺の駅でいいのか?』
『うん。真上君が住んでいる町を見てみたい』
勤務している会社はビジネス街で娯楽施設が何もないくらいだけど、真上君の住む町は繁華街っぽいもんね。今まで電車で過ぎるだけで降りることはなかったし。
――って言うか、あれ? 返事が来ない。
こちらから送ってみようかと思った時、メッセージが届いた。
『分かった』
一言なのに今度は遅っ。……あ、もしかして外出中なのかな。だとしたら申し訳ない。
『今どこ? 外出先ならメッセージ送るの止めるね』
『家』
今度はまた速いな。
『でも用事があるならめ』
「あ」
彼のレスの速さにこちらまで焦って途中で送信してしまい、思わず小さく声を上げてしまう。
携帯から顔を上げたが、誰も気にしている様子は無かったので、再び視線を画面に戻すと既にメッセージが来ていた。
『大丈夫』
大丈夫か。そっか、大丈夫なんだ。でも、会って話すのとは勝手が違う。久々に会った旧友相手に下らない会話もできないし……。
どうしようかなと髪に触れていると彼から再びメッセージが届く。
『今日は早い帰りだな』
『昨日は残業だったから。真上君こそ早いね』
『昨日みたいな時間は稀。いつもこれぐらいの時間には家にいる』
なるほど。私も帰りの電車はいつも大体がこの時間だから、会う機会がなかったわけね。そう考えると本当に偶然の出来事だったんだ。
と、その時。
がたんと電車がひと揺れし、停車したことに気付いて顔を上げると、そこはちょうど真上君の駅だった。
『今、真上君の駅に着いたよ』
『そうか』
思えば通り過ぎるだけで、誰かが住んでいる町だなんて考えたことがなかった。
『あ、発車する。ばいばーい』
テンション高いな、私。
密かに苦笑いしているとまたメッセージが届く。
『止める?』
『ごめん、違う。あ、でもいつまでも付き合わせるのは悪いからもう終わるね』
『俺は大丈夫。佐藤さえ良ければ続けよう』
『じゃあ、もう少しだけ』
結局、私が降りる駅までメッセージのやり取りは続いた。
最初のコメントを投稿しよう!