渡された名刺は

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「あれ? もしかして怒っている?」 「怒ってはいないけれど失望はしているかな。野々村君って不誠実な男だったんだなと」 「失望か。人に勝手なイメージをつけて、それを押しつける方が良くないと思わない?」 「確かにそうだけど……」  口ごもる私にさらに畳みかけてくる。 「それに女の子の方もそれでいいって言ったんだよ。彼女たちにも責任があるでしょ?」  確かに彼一人を責めるのはおかしいのかもしれない。けれどそれを免罪符にするのはどうだろうか。  いつかは自分だけを好きになってくれるんじゃないかという女心を利用しているように見えなくもない。 「佐藤さんは真面目だね。いいんだよ。俺たちはその関係で割り切っているんだから」  それもそうねと知らんぷりすることは簡単だが……。  渋い表情を浮かべる私に対して、彼は人の良さそうな笑みを浮かべるばかりだ。 「話を戻すけど佐藤花穂さん。俺を好きだと言ったその舌の根の乾かぬ内に要に告白したんだよ。まあ、その前に別れていたから二股ってわけではないんだけどね」  ならば野々村君は文句を言う筋合いはないな。不愉快そうに言っているけれど。 「俺は要に一度付き合ってみればって言ったんだ。嫌なら別れればいいわけだしって。結果、二ヶ月で別れたよ」  真上君は、自分はつまらない人間だそうだと言っていた。  姿形がいきなり変わることがあっても、性格はすぐに変わるわけじゃない。女の子が望んでいた理想の格好いい男の子ではなかったのかもしれない。だから真上君は――。 「その後、彼女はすぐにまた別の男と付き合ったよ。ね? 強かでしょ、女の子って」  つまり野々村君の中では、女性にはそういう扱いで十分ということ?  卵が先か、鶏が先かってやつですか。女性が強かか、野々村君が不誠実か。  でもそれって単に。 「人を見る目がなかっただけよね」 「え?」  はっ!  しまった。今、口に出してしまったか。 「あ、あの、今の」 「そっか。それもそうだ。俺に女の子を見る目がなかったんだよね」  しっかり聞かれていたぁぁ。 「ご、ごめんなさい」 「謝らなくていいよ。君はそんな女性と違って高潔なんだから理解できないだろうし」 「あ、あのね。そうじゃなくて」 「君は他の女と違うよね。だから嫌いと言った相手が格好良くなったからと言って、すり寄って行かない――でしょ?」  野々村君の言葉に目を見張った。
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