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「……て」
「え?」
「どうしてそんなに優しいの」
『あなた』だから優しいだけ? 誰にでも優しいの?
真上君の優しさに戸惑ってしまう。
「それは」
彼は少し考え、そしてにっと笑った。
「下心があるから」
「――は、はいっ!?」
「やっぱり佐藤に俺のこと、良く思ってもらいたいからだよ」
どうして彼はこんなに自分の気持ちを素直にさらけ出してくれるんだろう。
どうして私はこんなに自分の気持ちを素直にさらけ出せないんだろう。
ずっとそう思っていた。
きっと私は負けたくなかったんだ。
彼に。第三者の目に。そして何よりも――自分自身に。
「真上君は……甘い物が好きだよね」
「え? うん」
突然話を変える私にも真上君は付き合ってくれる。
「真上君は、お」
女の子も甘い方がいいの?
そう聞こうと思ったが、止める。
彼の好みがお菓子のような甘い女の子だったとしても、今、私に向けてくれている感情は決して嘘ではないはずだから。
「――お酒は飲まないの? 甘党な人はお酒をあまり飲まないと聞くから」
「いや。普通に飲むよ」
「強い?」
真上君は何となく強そうなイメージがある。
「どうかな。付き合い程度には飲めるとは思う。佐藤は昨日、お酒を飲んだ?」
「ううん。弱くてすぐ赤くなるし、眠くなるの。一人で家に帰れなくなりそうで怖いから」
「なるほど。よし、じゃあ今度ぜひ夜に飲みに行こう」
「怖い怖い怖い!」
「はは、冗談」
でも真上君と一緒なら、お酒を飲んでもいいかな。
――って、真上君ならちゃんとお家に連れ帰ってくれるって意味であって、断じて他意は無い!
自分の中で言い訳してしまう。
「何で急に赤いの?」
「お、お酒のことを考えていたから」
「一滴も飲まずに酔うとはアルコール業界の敵だな」
真上君は苦笑いし、そしてふと思いついたように付け加える。
「逆に弘貴はお得意様だな。あいつ、ああ見えて酒豪だから」
「そうなんだ」
野々村君の名前が出て一瞬固まったが、慌てて取り繕った。
「どうかした?」
私の顔色が陰ったのに気付いたのだろうか。彼は眉をひそめる。
「ううん。野々村君と仲良いね」
「弘貴が何か」
「ううん。あのね。真上君、都合のいい日はいつ? 今度こそ忘れずに傘を持って来るから」
「……じゃあ。明日、この時間は?」
「うん。明日。約束ね」
指切りする代わりに私は彼に笑みを向けた。
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