69人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
次の日。
浜中さんが選んだ服はフェミニンなオフショルダーとスキニーパンツだった。
「このオフショルダー、可愛いでしょう。あと、どうしても譲らないというから仕方なくスキニーパンツだけは我慢してあげます。仕方なく」
ため息を吐く浜中さん。
なぜ二度言った。
「スキニーは足首を見せるために折り返しましょうね。佐藤さんは背がありますから足首を出すとさらに足が綺麗に見えますし、何よりもその方が色っぽいですし。そして靴はこれ!」
待て。
断じて色っぽさは求めておらぬ。
それに何だか彼女は生き生きしているが……。
「ごめん。勘弁して。本気でこれを選んだら泣く」
こちらは若干涙目だ。
「って言うか、キャラを考えてよ。私じゃ似合わないってば。オフショルダーって、もろ肩見えているじゃん!」
「佐藤さんも似合いますって」
「オフショルダーなんて浜中さんくらいの二十代前半までならいいけど、私が着ても痛いだけだってば」
「佐藤さんったら、酷い! 年代差別する人だったんですか!?」
「ご、ごめんなさい!?」
若干、理不尽に押し切られている気がしないでもないが、彼女の勢いに思わず謝ってしまう。
「似合っていれば年代なんて関係ありませんよ。佐藤さんは絶対に似合います。私が保証します!」
拳を作って熱弁してくれるのはありがたいけれど、自分に合わない物を無理に着ても絶対挙動不審になるだけだ。
助けを求めようと店員さんを見てみたものの……。
お願い、店員さんもきっとお似合いになられますよとか笑顔で言わないで。プロなら似合わないと分かっているでしょうと小一時間説教したくなる。
が、実際は浜中さんに許しを請うしか術はない。
「無理。ホント、無理。これだけはごめん。許して」
「ちっ」
……今、その可愛いお顔で舌打ちしました?
彼女はため息を吐いた。
「仕方ないですね。百歩譲ってこちらにしましょうか」
次に選んでくれたのは首回りを大きく開けたVネックニットだった。
「これにね、首にストールを巻くのはどうですか?」
「ああ、なるほど。うん。これくらいなら」
さりげないストールはお洒落だし、何だか仕事のできる女という感じがする。
「ふふ。じゃあ、これで決まりですね!」
「ありがとう、浜中さん」
「いえいえ、お力になれて光栄です! 明日、頑張って下さいね」
だからぁ。頑張りたくないんだってば……。
最初のコメントを投稿しよう!