勝負の行方

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『お話があります。ご都合はいかがですか』  朝、電車の中で野々村君に向けてメッセージを送る。  すると彼も携帯を触っていたようだ。すぐに返事が来た。 『じゃあ、お昼迎えに行くね』  文字だけでも余裕が感じられて、ちょっとイラッとした……。  お昼になって会社を出ようとした時、浜中さんに呼び止められた。 「佐藤さん、お昼、ご一緒しませんか?」 「ごめんね。今日は先約があって」 「まさか野々村さんですか」  相変わらず勘の鋭い浜中さんだ。私は頷く。 「そうですか」 「あれ? 止めないの?」 「止めて欲しいんですか?」  質問に質問で返されて苦笑すると首を横に振った。 「ううん」 「でしょう? 昨日と違って随分スッキリした表情だから、ご自分の中で結論が出たのかなと。だったら快く送り出します」 「ありがとう」 「負けないで下さいね」  ぐっと拳を作る浜中さんに私はただ笑みを浮かべてみせた。  そして二人して会社を出ると、既にそこには野々村君が立っていた。  意外と女性をもてなす手際はいいな。あ、だからモテるのか。 「お待たせしてごめんね」 「あ、佐藤さん。大丈夫、今来たところだよ――と、浜中さんだったかな。こんにちは」 「ええ。こんにちは」  野々村君は浜中さんを一瞥すると私を見た。  彼女を連れてくる気かということだろう。私はそれを否定するために小さく首を振った。 「そこで会ったの」 「ええ。野々村さん、先日はありがとうございました」 「こちらこそ楽しかったです」  楽しかったって、二人とは分かれて座ったよね。  私は彼の社交辞令に内心苦笑するが、浜中さんはそうですねと微笑んだ。  うん。社会人たるものはこうあるべきですね。……反省。 「あ、私は用事がありますので、ここで失礼しますね」 「そうなの? じゃあ、また今度皆で食事に行きましょう」  そつなく会話する野々村君に対して浜中さんも軽く流す。 「ええ。またいつか。ではお先に」  彼女は笑顔で会釈すると去って行った。  そして野々村君はこちらに振り返って笑う。 「彼女、可愛いよね。顔は俺の好みなんだ」  知らんがな。  だったら彼女を誘えばよろしい。 「ただ残念なことに小賢しいね」 「……え?」  今、穏やかではない言葉が聞こえたような。  眉をひそめた私に、野々村君はご丁寧に笑顔で繰り返してくれた。 「彼女は小賢しいねって言ったんだよ」
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