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「口が悪いんじゃなくて?」
「ううん。とんでもない。看過できないくらい性格が悪い。よく言われない?」
にっこり笑うと野々村君は眉と口角を上げた。
ケンカを最初に売ってきたのはそっちでしょうに。図星指されると頭に来るのは彼も一緒なのね。
「佐藤さんも言うね。この前と随分違う。本当はいつもこんな感じ?」
「私も外面だけは良いの。だから普段は言わないわよ」
「へえ。要の前では猫被っているんだ?」
野々村君は狡猾そうな笑みを浮かべる。
私『も』と皮肉を言ったつもりだが、軽くスルーされちゃった。
しかし、真上君の名前を出せば私が怯むとでも思ったのだろうか。うーん。やっぱり性格が悪い。
「ううん。ちゃんと私は性格が悪いって言ってるし、知っているよ」
「俺は要と一緒の扱いってこと?」
「ちょっと違う。私が本心を見せてもいいと思えるのは信用している人間と心底どうでもいい人間だから」
「なるほど。ということは俺は信用している人間の方?」
わざとそう言っているのだろうけど、なかなか図太い神経だなと思う。
人間、見た目では分からないと言うけれど本当だ。
「私、野々村君はもっと頭がいいと思っていたんだけど違うのね」
人の神経を逆なでする野々村君の言葉へのカウンター攻撃が利いたらしく、彼は眉をひそめた。
「……ふーん。佐藤さんこそ俺が思っていたような人と違うね」
「そう?」
「うん。面白い」
「そう」
女性に向けて喜ばれる言葉ではないよね。どう面白いのか聞きたくもないが。
「お待たせいたしました」
「あ。ありがとうございます」
わぁ、これよこれ。テレビで紹介されていたんだよね。
店員さんが運んできてくれたパンケーキに興味が移る。
三段重ねのふっくらしたパンケーキに粉砂糖がまぶされ、側には生クリームと色とりどりのフルーツが添えられている。別の容器に用意されたメープルシロップはお好みでということだろう。
まずはクリームとメープルシロップ無しで頂こう。
「ではでは頂きます」
手を合わせてケーキにナイフを入れ、一口サイズに切った。
そして。
「ん! 美味しい!」
甘い物は脳内にエンドルフィンが出て、幸せにするよね。真上君と一緒に来れば良かった。きっと彼なら喜んで食べたはずだ。
そう考えていると前回と同様、野々村君はパンケーキに手も付けず、何も言わずこちらを見ているのに気付いた。
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