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「野々村君も召し上がれ。シロップ無しだと甘すぎないから大丈夫だと思うよ」
「そう」
彼は頷いてパンケーキを一口大に切り分けると口に入れた。
それを見届けると、また自分のパンケーキに目を移す。
今度はクリームも一緒に付けよう。シロップは最後かな。
「今日は聞かないんだ? どうって」
「ん? ああ、聞いて欲しかった?」
野々村君の言葉に目を上げると、彼はにっこり笑みを見せた。
「ううん。全く」
じゃあ、言うなというツッコミ待ちでしょうか。
けれど私も彼に同様の笑みを返して言った。
「だよね。知ってた」
お互いニコニコした中で、こんな会話が繰り広げられているとは誰が想像しようか、という感じね。
本来なら苛立つところだろうが、パンケーキの美味しさでそれを緩和してくれるのはありがたい。おかげで冷静に話せる。
「ところで野々村君。今日は随分攻撃的ですね。どうして?」
「攻撃的とは言葉が悪いな。付き合う女性皆にこの態度じゃないよ。甘い雰囲気を好む女性にはそうしている。ちゃんと相手に合わせているよ」
「え? 私、野々村君に対して、そんなに攻撃的だったかな」
おかしいな。外面だけは良かったハズなんですが。
振り返ってみても冷たい態度を取った覚えはない。
「偽善でも君のような強い『正義感』を持った女性にはこの対応の方がいいと思ってね」
偽善か。
うーん。当たっているだけに反論できないわ。
思わず苦笑いする。
「そんな強い自尊心を持った女性が自分の前にひざまずく姿は可愛いから」
うわ、やばいっ。
おまわりさん! この人、ドSです!
「そっちが本性なのね」
「頭の良い女は好きだよ。小賢しいのは嫌いだけどね」
また小賢しいか。
私はフォークとナイフを置いた。
「馬鹿な女だと見下し、小賢しい女だと厭い、あなたは一体何をお望みですか?」
「君に話す義務はないと思うけど?」
「ああ、良かったぁ」
微笑んでいる彼に対して、両手をぱちりと合わせると笑みを返した。
「あなたに微塵も興味は無いのに尋ねちゃって、後悔したところだったの」
野々村君は口元だけ笑みを作り、目は鋭く細めた。
「君は人の神経を逆なでするのが上手な人だね」
「あら。それは同族嫌悪ってことかしら?」
「本当に口の減らない人だ」
「その言葉、そのまま野々村君にお返ししますね」
澄まし顔で答えると、彼はため息を吐いた。
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