次の快速列車に乗るから

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「真上君」  改札前の柱に身を任せていた彼だったが、私が手を振りながら声を掛けると体を起こした。 「佐藤、お疲れ」 「うん。真上君もお疲れ様です。それと真上君の大事な傘、長らくありがとう」  そう言って傘を手渡すと、彼は小さく笑った。 「大事な傘って大げさだな。いつでもいいのに」 「ううん。もう大丈夫だから」 「大丈夫?」  首を傾げる真上君に私は頷くだけに留める。  申し訳ないですが、今はとてもじゃないけど真上君の質問に答えるだけの心の余裕はありません。  だけど今、伝えなくてはいけないことがある。 「あのね。私、真上く」  そこまで言った時、彼は腕を伸ばして私の肩を引き寄せた。  真上君の熱が急に間近に感じられて胸がどくりと高鳴る。  な、何で? まだ何も言っていないのに。 「危ないな」 「え」  見上げると彼の視線が私の後ろにあるので振り返った。  既に人影は無いが、どうやら私に人がぶつかりそうだったということらしい。  ソーデスカ。……びっくりさせんな馬鹿!  庇ってもらっておいて恩知らずにも真上君を睨み付けると、彼はごめんごめんと苦笑して両手を挙げた。 「落ち着かないな。もし時間があるなら、どこかお店に入る?」  これまで確かに問題を先送りしてきた私ですが、さすがにこの緊張感を引き延ばす自虐趣味はありません。  視線を外へとやった真上君の袖を引いて、気を戻す。 「ううん。あのね、聞いて」 「佐藤?」 「今日、お昼に野々村君と会って話してきたの」 「弘貴に? どうして……」 「そ、それで。軽蔑されるかもしれないけど、でも真上君に伝えなきゃと思って」  喉の奥が熱くなって声が掠れる。  私がよほど思い詰めた表情をしていたのだろうか。真上君の表情まで伝染したように硬く強ばった。 「……何?」 「あのね。真上君と同じ重さかは分からないけど、でも私」  震える手をぐっと握りしめた。 「私、真上君が好きです」  若干睨み付けて言ったことは認める。  けれど私の中では精一杯の力を振り絞ってした告白は真上君の心には届かなかったらしい。  彼は感情の見えない瞳で、ただ沈黙のままこちらを見下ろしている。  私は一つ息を吐くと笑みを浮かべた。 「それを伝えたかっただけです。じゃ!」 「……え!? ちょ、ちょっと佐藤!」  身を翻すと焦ったように後ろから真上君の腕が伸びてきて、私の手首を掴んだ。
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