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「佐藤、ちょっと待って! 今の何? 何て言った!?」
「は?」
何ですと!? 今、聞いていなかったとな!?
人の一世一代の告白を聞き逃すなどと失礼千万にも程があるぞ!
振り返ると彼を睨み付けた。
「別にっ!」
「あ、いや。ごめん。違う。い、今、何だか頭が混乱していて。俺のことが好きって聞こえた気がしたんだけど」
真上君は首に手を当てて狼狽えている。
「言いましたが、何か!」
今度こそしっかり耳に届いたらしい彼は目を見開き、そして目元を薄く紅潮させた。
「佐藤が俺を好き?」
「そうですよ!」
何度言わせるんだ。
しかし本気で戸惑っている真上君に苛立っていた気持ちが落ち着いてきた。
「い、いや、だって。今、流れが完全に振る体勢に入っていなかったか?」
「振る体勢?」
……って何ですか。
「表情が硬いし、弘貴と会ったって言うし、軽蔑とか言うから。てっきり弘貴のことが好きになったと言われて振られるのかと覚悟していた」
「えぇ!? な、何でそんな発想に」
なぜ私が野々村君のことを好きになるのか。冗談でも止めたまえ。
そもそも私はMじゃないぞ。
「弘貴は華があって会話も上手だし、女性の扱いもスマートだし。それに家に弘貴が来た日、佐藤、赤くなっていたから」
「ん? いつ?」
「弘貴が佐藤のこと……綺麗だって言っていただろ」
はて。野々村君、そんな軽口叩いていたかな。聞き流していたんだろうか。
「俺がお茶を用意してた時だよ」
あの時、何を話していたっけ。
確か中学の先生の話をして、真上君と再会した話をして、野々村君がもしかしたら真上君より先に再会したかもなんて頓珍漢なことを言い出し――。
はっ。
あれか。真上君は私に気付いてくれたんだって、思った時!
「……思い出したみたいだな」
不愉快そうな真上君の声に顔を上げる。
「あ、あれは違うの! あれは真上君」
「俺?」
「あー」
「言って」
思わず口を噤んだが、彼の静かなる威圧を感じて、諦めて白状する。
「雰囲気が変わっていても、真上君は私に気付いてくれたんだなって考えたら恥ずかしくなっちゃって」
「え。そう、だったんだ」
「じゃあ、もしかしてあの時、真上君が不機嫌だったように感じたのは妬い……」
「……そうだよ」
う、うわぁ。
何だか照れが入って、お互い視線を逸らす。
恥ずかしいので、とりあえず話を戻すことにした。
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