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顔が突沸する。
最近、よく顔が熱くなる。そのうち知恵熱を出すに違いない。
「こ、こんな所で!? 公共の場で告白とか非常識にも程がありますよ!?」
「佐藤、ブーメランが刺さって痛くない?」
「い、痛いです。ゴメンナサイ」
でも告白というのは勢いやエネルギーってものがいる。すっかり潰えたよ。
「さっきは振られると思っていたから、言葉がうまく頭に入って来なかったんだ。せっかく佐藤が告白してくれたのに。ごめん。謝るから」
左手は肩に、右手は私の手を握りしめて顔を近づけて来る。
「え、ちょっ。ま、真上く」
「だから」
彼の吐息が耳にかかって身を引こうとすると。
「もう一度言って」
耳に色を含んだ掠れた声を流し込まれて、ぞくりと痺れる甘い電気に硬直してしまう。
「好きだよ、里香」
とどめを刺されて今度は肩が跳ね上がり、一歩足が下がる。
――と。
バタンッ。
はっと我に返って音の方向を見ると、私の足が柱に立てかけてあった傘に当たったことで倒れたらしい。
「か、傘が!」
「おーい」
恨めしそうな真上君の声に慌てて視線を戻す。
「え。あ、こ、今度ね。今度絶対!」
「おあずけキツイ……」
項垂れるのはともかく、首元でため息を吐くのはヤメてぇぇーっ!
「と、とにかくひとまず離れましょう!」
「つれなくて泣きそう」
「泣いちゃ駄目。男の子でしょ」
「……今度会う時は『男』になるけどいい?」
「怖い怖い怖い!」
「冗談」
彼は笑って身を起こした。……のはいいのですが、『だといいね』とこっそり付け加えるのは止めて下さい。
ひそかに脱力していると、彼は視線を改札の奥に目をやって眉を下げた。
「次、快速列車来るみたいだ。そう言えば、この間は大丈夫だった?」
「ぎりぎり」
「そっか。じゃあ、そろそろ行った方がいいかな」
「……ん」
真上君は名残惜しそうに、私の手を握る力を緩めた。
もう少し一緒にいたい。
そう言いたいけれど、喉が熱くなって言葉が詰まる。
だけど変わると、自分の気持ちを素直に見せると決めたから。
「あのね。次の快速列車に乗るから。だからもう少し」
乱れる鼓動を整えるために一呼吸した。
きっとぎこちない笑みだけれど、真っ直ぐに視線を向ける。
「もう少し私と一緒にいて下さい」
「――もちろん。喜んで」
ふわりと口元を綻ばせた真上君の手をぎゅっと握りしめた。
(終)
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