次の快速列車に乗るから

5/5

69人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
 顔が突沸する。  最近、よく顔が熱くなる。そのうち知恵熱を出すに違いない。 「こ、こんな所で!? 公共の場で告白とか非常識にも程がありますよ!?」 「佐藤、ブーメランが刺さって痛くない?」 「い、痛いです。ゴメンナサイ」  でも告白というのは勢いやエネルギーってものがいる。すっかり潰えたよ。 「さっきは振られると思っていたから、言葉がうまく頭に入って来なかったんだ。せっかく佐藤が告白してくれたのに。ごめん。謝るから」  左手は肩に、右手は私の手を握りしめて顔を近づけて来る。 「え、ちょっ。ま、真上く」 「だから」  彼の吐息が耳にかかって身を引こうとすると。 「もう一度言って」  耳に色を含んだ掠れた声を流し込まれて、ぞくりと痺れる甘い電気に硬直してしまう。 「好きだよ、里香」  とどめを刺されて今度は肩が跳ね上がり、一歩足が下がる。  ――と。  バタンッ。  はっと我に返って音の方向を見ると、私の足が柱に立てかけてあった傘に当たったことで倒れたらしい。 「か、傘が!」 「おーい」  恨めしそうな真上君の声に慌てて視線を戻す。 「え。あ、こ、今度ね。今度絶対!」 「おあずけキツイ……」   項垂れるのはともかく、首元でため息を吐くのはヤメてぇぇーっ! 「と、とにかくひとまず離れましょう!」 「つれなくて泣きそう」 「泣いちゃ駄目。男の子でしょ」 「……今度会う時は『男』になるけどいい?」 「怖い怖い怖い!」 「冗談」  彼は笑って身を起こした。……のはいいのですが、『だといいね』とこっそり付け加えるのは止めて下さい。  ひそかに脱力していると、彼は視線を改札の奥に目をやって眉を下げた。 「次、快速列車来るみたいだ。そう言えば、この間は大丈夫だった?」 「ぎりぎり」 「そっか。じゃあ、そろそろ行った方がいいかな」 「……ん」  真上君は名残惜しそうに、私の手を握る力を緩めた。  もう少し一緒にいたい。  そう言いたいけれど、喉が熱くなって言葉が詰まる。  だけど変わると、自分の気持ちを素直に見せると決めたから。 「あのね。次の快速列車に乗るから。だからもう少し」  乱れる鼓動を整えるために一呼吸した。  きっとぎこちない笑みだけれど、真っ直ぐに視線を向ける。 「もう少し私と一緒にいて下さい」  「――もちろん。喜んで」  ふわりと口元を綻ばせた真上君の手をぎゅっと握りしめた。 (終)
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加