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その日は雨だった。 薄暗い歩道の縁石すれすれを軽自動車が走り抜け。 水溜りをタイヤが押しつぶした。 水飛沫は俺の薄汚れたジーンズを洗う。 午前三時にコンビニへ向かう俺には、財布などない。 軽自動車のヘッドライトは俺の後ろ姿を少しは暴いただろう。 着ている皮ジャンの奥にはサバイバルナイフ。 ただ単に金欲しさのコンビニ強盗さ。 二年前に、恋人とふたりだけで結婚をするため二百万の資金をかき集めた。 孤独な俺と恋人はただ、幸せになりたかった。 だが、恋人は結婚式を挙げた後。 癌で死んだ。 200万の資金はそのまま癌の治療費になった。 恋人の初めての誕生日も一度も祝ってやれなかった。 俺はバイトを辞めることにした。 全財産で遊び尽くすと、サバイバルナイフを買った。 客のいない店内には店員が一人。 防犯カメラに映ろうが今の俺には関係ない。 蛍光灯からの明かりで、俺のサバイバルナイフが素顔を見せる。 棚に血のりがついたが、首筋を横に切り刻むと、店員の顔は苦悶の顔から口を開けた眠った顔そのままだった。 血液のついた足跡を残しながらレジへと向かうと、一人の客がドアから覗いていた。 「あの、誰か怪我したの?」 小さな女の子だった。 服装はピンクのカッパを着ている。 俺は俯いた。 「こないほうがいい。こっちへ来ちゃダメだ」 小さな女の子がこんな時間まで起きているんだ。 よっぽどのことなのだろう。 「ショートケーキ取って」 小学生くらいの子が俺に指図した。 空っぽの感情には何も芽生えない。 「ついて来い」 俺は小さな女の子がドアから入るのを見て、後ろを向いた。 冷蔵された棚からショートケーキを取り出すと、小さな女の子に渡す。 外の雨には静けさと寒さと悲鳴のような風が吹いていた。 「ロウソクある?」 「わからない。探してみる」  俺は幾つかある棚から、ロウソクを持って来た。 元のロウソクの用途はなんでもいい。 「マッチ」 「ああ」  小さな女の子は倒れた店員の顔を覗いていた。 「眠っているね」 「ああ」 「私……たぶん朝を迎えられないの。パパとママが起きていると思うの。この人もあなたもそう。ここではだれも朝を迎えられない」 「ああ」 赤いパトランプが雨音の中から現れた。 「私のお誕生日。祝って」 「ああ」 血液で濡れた床に座る小さな女の子の首筋にはミミズがのた打ち回ったような痣があった。
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