ゾロという名の猫

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「えっ……」  それ以上、僕は何も言えなかった。言える訳がないのだ。ユウジの言葉は正しい。  僕は、察することが出来なかったのだから。 「ゾロはいつも言ってたんだよ。仔猫の時、いきなり神社の草むらで母猫とはぐれちまって……とても寂しくて悲しくて怖かった、とな。でも、お前が家に連れ帰って、美味しいご飯をお腹いっぱい食べさせてくれて……本当に嬉しかった、とも言っていたよ」  ユウジは、懐かしそうに空を見上げた。その顔には笑みが浮かんでいる。微笑みながら、彼は言葉を続けた。 「ゾロは昨日も、俺の前に顔を出したんだ。お前を守ってやってくれと……最後の力を振り絞って、俺に言いに来たんだよ」  そう言った後、不意にユウジは言葉を止めた。真剣な眼差しで、じっと僕を見つめる。 「ゾロは一日も欠かさず、俺の所に来ていたんだ。本当に凄い猫だったよ。俺はゾロに、敬意のようなものすら感じていたんだ。だから、ゾロの最期の頼みは聞くつもりだよ。これからも、妖怪どもには手出しさせないからな」  だが、僕はユウジのことなど見ていなかった。彼がその後に言った言葉も聞いていなかった。  心の中から湧き出てくる感情……それを押さえつけることは、もはや不可能だったから。 「ゾロ……」  ゾロは、ずっと戦ってくれていたのだ。まさに怪傑ゾロのように。  誰に知られることもなく、知られることをよしとせず、たった一匹で戦い続けてくれていた。  ただ、僕のためだけに。 「僕は、なんてバカだったんだ……」  呟きながら、僕は立ち上がる。  そう、僕はバカだった。そもそも、よく考えれば分かったことではないか……ゾロが外を出歩くのと時を同じくして、妖怪が現れなくなったことに。  だが、僕は気づいてあげられなかった。たった一人、いや一匹で僕のために戦い続けていたゾロ。老いた体に鞭打ち、へとへとになるまで外で狩りをし、ユウジに貢ぎ物として捧げていたのだ。  妖怪たちを、僕に近づけさせないためだけに。  僕が、普通の人間として生きていけるように。  なのに僕は、ゾロをどうしようもないワガママな馬鹿猫だと思っていた。きままに外を遊び歩き、餌を食べる時だけ帰って来る奴だと。  僕が何をしようが、完全に無視していたゾロ。だが、それは当然だった。狩りで疲れきっていたゾロは、僕の相手など出来るはずも無いのだから……。
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