ゾロという名の猫

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 そんなゾロが、気が付くと死んでいた。まるで眠っているかのように、安らかな表情で息を引き取っていたのだ。  正直、とても不思議な気持ちだった。悲しくない、と言えば嘘になる。だが、涙は一滴も出てこない。むしろ、当惑のようなものを感じていた。ずっと一緒に生活していたはずのものが、ふと気づくと死んでいる……その事態に対し、僕の心はどう対処すればいいのか分からなかった。  僕の住んでいる町は、お世辞にも都会とは言えない地域だ。ちょっと変わった部分もある。幼い頃には近所に畑もあった。築ウン十年になるオバケ屋敷のような空き家もあった。繋がれていない犬がうろうろしていたりもした。  そんな田舎町も、今では随分と変わってしまっている。ゾロを拾ってきた神社は、十年以上前に取り壊されてしまった。近所を自由に闊歩していた犬も、もう何処にもいない。大きな畑はいつの間にか駐車場に取って代わり、怪しげなオバケ屋敷も取り壊され……今や更地である。  そして、僕自身も変わってしまった。  いつの頃からだろう……僕の前に、妖怪が現れるようになったのは。  幼い頃の僕は、自分が普通であると信じて疑わなかった。仮に妖怪が見えていたとしても。  だが、他の人間には妖怪が見えていなかったのだ。僕は、他の子たちに嘘つき呼ばわりされる。「あいつ嘘つきだぜ」と噂され、誰も寄って来なくなった。  しかし僕には、はっきりと妖怪が見えていた。また妖怪の方も、僕を見ていたのだ。  授業中に外の木に止まり、そこから窓ガラス越しに僕を見つめていたカラス天狗。  学校の帰り道、僕の後を付いて来た喋る黒猫。  川の中を、のんびりと泳いでいた河童。  町中に、いきなり現れた一つ目小僧。  電柱にぶら下がり、ゲラゲラ笑いながら僕を指さしていた着物姿の女。  その他にも、様々な妖怪が僕の前に現れた。有り得ないはずの者、存在しないはずの何か……そんな者たちを数えきれないくらい見た。いや、見るだけならまだマシだ。僕は妖怪に話しかけられたり、触れられたり、追いかけられたりした。酷い時には、妖怪に物を壊されたりなどのイタズラをされたのだ。もちろん、全ては僕の責任にされたが……。  しかも、そいつらは決まって僕が一人でいる時に出現する。他の人間がいる時には現れなかったのだ。もっとも、現れたとしても他の人間には見えなかったのだが。
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