ゾロという名の猫

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 しかし、そんなことを当時の僕は知る由もない。僕は大人たちに訴えた。妖怪が出る、と。  助けを求める僕に、大人たちは初めは笑っていた。だが次には、強い口調で叱りつけた。その次は、本気で怒った。唯一の味方であるはずの両親ですら、僕の言うことを信じてくれなかったのだ。  やがて僕は、心療内科に連れて行かれる。すると、医者はこう言った。 「君は病気だね。でも大丈夫だよ、先生が治してあげるから。治るまで、病院に通いなさい」  医者の言うことを信じ、僕は病院に通ったが……それでも、人外の者たちは現れ続けたのだ。  やがて、僕は悟る。  僕の言うことは、誰も信じてくれないのだ。それならば、誰のことも信じないのが正解だ。たとえ両親の言うことであっても。  しかし、その状況は変わる。  いつからか、はっきりとは分からないが……僕の前に妖怪が現れなくなったのだ。  医者は治療の成果だ、と誇らしげに語っていた。それに対し両親が、バカみたいにペコペコ頭を下げていたのも覚えている。  こうして僕は、晴れてマトモな人間の仲間入りをすることとなる。めでたし、めでたし……という訳にはいかなかった。  田舎町というのは、ただでさえ情報が広まりやすい。ことに悪い情報は、放っておいてもあっという間に広まる。僕は頭のおかしい少年という目で見られ、その評価はいつまでも変わることがなかった。みんなは僕を避けていたし、友だちなど出来るはずもない。中学校に進級しても、僕はずっと一人ぼっちだった。  その後、僕はどうにか近くの高校に進学し、そこを卒業したものの……それから二十三歳の今まで、何もせずにブラブラしている。将来など、もはや知ったことではない。毎日、漂うように生きていた。  そんな爛れた日々を過ごしていた中、突然ゾロが死んでしまったのだ。まるで、眠るように安らかな最期だった。僕の部屋の片隅で、ひっそりと。実際、僕はゾロが死んでいることに、しばらく気が付かなかったのだから。  こいつは、何のために生きていたのだろう?  ふと、そんなことを考える。ゾロは、生産的なことを何もしていなかった。ただ食べて外で遊んで寝る、それだけだ。無意味に生き、無意味に死んでいった。ゾロが死んでも、何事も無かったかのように世の中は動いている。
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