ゾロという名の猫

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 ゾロは、外にいるのが好きな猫だった。下手すると丸一日帰って来ないこともあった。つまり、ゾロは家に居たくなかったのかもしれない。少なくとも、家より外の方が好きだったのは間違いないだろう。  ならば、大好きな場所である外に墓を作ってやろう……僕はそう思ったのだ。  丘の頂上にたどり着くと、僕は一息ついた。運動不足の身には、少々こたえる距離だ。土の上で僕はしばらくの間しゃがみこみ、下に広がる風景を見ていた。ここは、町が一望できる場所なのだ。  きっと、ゾロも喜ぶだろう。  今になって、僕はゾロの存在の大きさに気づいた。自分の部屋に、ずっと閉じこもっている日々。僕は世の中の全てを呪っていた。妖怪が見えてしまう体質に生まれてしまったばかりに、病気扱いされていた僕。学校の同級生からも避けられ、居場所など存在しなかった……。  そんな僕のそばに、ずっとゾロはいてくれた。晩年は無愛想で、欠片ほどの可愛らしさも感じられなかったゾロ。それでも、外から帰って来ると僕の部屋に来た。  世の中の流れから完全に取り残され、部屋の中で膝を抱えていた僕。そんな僕のそばに、ゾロは居てくれる。その事実だけで、どれだけ僕の心を癒してくれていただろう。  ゾロの一生にも、ちゃんと意味はあったのだ。無意味な生じゃない。ゾロの存在は、僕のためになってくれていたのだ。  僕の胸の中に、欠片ほどの後悔の念が湧いてきた。その後悔の念を振り払うため、僕は穴を掘り始める。  園芸用の小さなスコップでは、穴を掘るのも一苦労だ。ましてや、運動不足な上に経験不足の僕が上手く掘れる訳がない。途中、何度も中断し休む羽目になった。  それでも、どうにか掘り続けられたのは……意地と、胸の中に湧いていた後悔のせいだろうか。さらに流れる汗が、僕の中に蠢く暗い何かを浄化していくような、そんな不思議な感覚にも襲われていた。  どのくらい掘り続けたのだろうか。  気がつくと、陽が沈みかけていた。もう夕方だ。穴も、かなり深く掘ることが出来た。これなら、ゾロの体を埋めることが出来るだろう。  僕は、ゾロの体をビニール袋から出した。固くなり始めている。その感触は、あまり気持ちいいものではない。  そんなゾロの体を穴に入れた。そして、上から土をかけていく。出来るだけ、何も考えないように努めた。考えていると手が止まる。この作業は、一刻も早く終わらせたい。
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