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でないと、感情に押し潰されてしまいそうだから。
時間はかかったが、ゾロの埋葬は完了した。僕は立ち上がり、出来たばかりの墓を見下ろす。ここに墓石のような物を置きたいが、そんなことをしたら何をされるか分からない。とりあえず、このままにしておこう。
そんなことを考えた次の瞬間、僕は突き飛ばされたかのような衝撃を受ける。耐えきれず、よろけて前のめりに倒れた――
後ろに何かがいる。
久しく味わうことのなかった感覚。それは、僕にとって忘れることの出来ないものだ。幼い頃から、ずっと僕の悩みの種であり、恐怖の源でもあったもの……妖怪がいる。
僕はうつ伏せに倒れた状態のまま、首だけを後ろに向けた。
数メートル離れた位置にいたもの……それは、巨大な白い犬だった。体は仔牛と同じくらい大きく、透き通るように美しい白い毛皮を身にまとっているのだ。
その犬は尻を地面に着けた姿勢で、何か言いたげな様子でこちらをじっと見つめていた。
だが、僕には分かっていた。あれは犬ではない。間違いなく妖怪なのだ。それも、ただの妖怪ではない。その体から発している妖気は普通ではなかった。息苦しさすら感じるほどなのだ……こんな存在と出会ったのは、生まれて始めてだ。
僕は震えながら、体の向きを変えた。仰向けの体勢から、どうにか立ち上がろうとする。だが、腰から下に力が入らなかった。恐怖のあまり、僕は動くことが出来なかったのだ。
一方、犬はじっと僕を見つめている。実に不思議な瞳だった……野性と知性とが感じられるのだ。僕は怯えながらも、その不思議な瞳から目を逸らすことが出来なかった。
「ゾロは死んだのか」
不意に、犬の口から出た言葉……それは、流暢な日本語だった。僕は恐怖に震えながらも、うんうんと頷く。その時になって、ようやく気づいた。
目の前にいるのは犬ではなく、狼なのだ。かつて日本では、狼を山の神として祀る信仰があったらしいが……僕の目の前にいるのは、太古の時代には神として祀られていたかもしれない存在なのだ。その周囲に立ち込めている妖気は、尋常な量ではない。今や、手で触れることが出来るのではないかと思えるくらいに濃い。
幼い頃の僕が出会った妖怪とはまるで違うものだ。野生の狼と犬が似て非なる存在であるように、目の前にいる者は、普通の妖怪とは全く違う。
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