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「それで、だ……お前はどう思うんだよ?」
狼は、僕にそう聞いてきた。どう思う、とは何のことだろうか。僕は何も分からぬまま、震えているだけだった。
すると狼は、呆れたような様子で僕を見た。
「おい、聞いてんのかよ? それとも、ビビっちまって声も出せねえのか?」
尋ねる狼の口調は、妙に砕けたものだった。身にまとう妖気や威圧感とは真逆の軽さが感じられる。僕は困惑し戸惑い、何も言えなかった。
すると、狼はため息を吐いた。
「しようがねえなあ」
言葉の直後、狼を覆う空気が変化する。さらに、狼の姿も――
次の瞬間、狼は姿を変えた。
今、僕の目の前には人間が立っている。さっきまで、狼の姿をしていたはずの者だ。若く野性味あふれる顔立ちの青年で、年齢は僕と大して変わらないように見える。黒いTシャツとジーパンというラフな格好で、僕をじっと見下ろしていた。
ややあって、青年は僕の隣に座り込む。
「俺の名前は……そうだな、ユウジとでも呼んでくれ。お前のことは、ゾロから聞いてるよ」
青年の言葉を聞いたとたん、僕は我に返る。同時に、次々と疑問が湧いてきた。ゾロから聞いてる? どういうことだ?
「あの、それはどういうことです? あなたは、ゾロを知ってるんですか?」
僕の問いに、ユウジと名乗った青年は大きなため息を吐いた。
「おいおい、やっぱり気づいてなかったのかよ」
「えっ? なっ、何をですか?」
思わず聞き返していた僕……だが、それも当然だろう。言っている意味が分からないのだから。僕は何を気づいていなかったと言うのだろう?
すると、ユウジは真剣な表情で僕を見つめた。
「あいつはな……ゾロは毎日、俺の所に来ていたんだよ。お前が、妖怪を見なくて済むようにな」
その時、僕は驚きのあまり言葉が出てこなかった。
何だよ、それ……。
どういうこと?
驚愕の表情を浮かべ、口を開けている僕。さぞかし間抜けな表情だったろう。
一方、ユウジは黙ったまま僕をじっと見つめている。その瞳からは、哀れみと同時に微かな怒りのようなものも感じられた。
少しの間を置いて、静かな口調で語り始める。
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