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「もう、十年以上前の話だよ。ゾロは、妖怪に悩まされているお前のことを心配していたんだ。そこで、あちこちの妖怪の所を回り、お前の前に姿を現さないよう頼んでいたんだよ。もちろん、妖怪があんな猫の頼みなんか聞く訳は無い。うるせえ! と一喝されて引き上げるパターンがほとんどだったそうだ。ひどい時には、食われそうになったこともあったらしいぜ。ゾロの奴、ビビりまくって必死で逃げたって言ってたっけ」
そう言うと、ユウジはクスリと笑った。おかしくて笑ったのか、あるいは昔を懐かしんで笑ったのか、僕には分からない。
ただ一つ確かなのは、僕には少しも笑えなかったことだけだ。
「そんなゾロの姿を見て、哀れに思った一匹の化け猫がいた。その化け猫が、ゾロを俺の所に連れて来たのさ。ゾロの奴、必死になって頼んできたよ……妖怪が、お前を困らせないようにしてくださいってな」
またしても、クスリと笑うユウジ。その時になって、僕はようやく言葉を発することが出来るようになった。
「そんな……僕は、全然――」
「知らなかった、と言いたいんだろ? まあ、それは仕方ないよ。だがな、一つだけ知っておいてもらいたいことがある。ゾロは毎日、俺の所にやって来たんだ。お供え物として、捕まえた鼠や虫や小鳥なんかを咥えてな……健気な話じゃねえか。全ては、お前のためだよ」
ユウジの口調は淡々としていた。だが、僕の心を静かに抉っていく。それは、殴られるより辛いものだった。
「そこまでされたら、俺も動かない訳にはいかないからな。俺は、この町の妖怪どもに言ってやったよ……お前に手を出すな、と。だがな、その後もゾロはやって来たよ。俺の所に、獲物を供えるためにな。毎日、必死になって狩りをしていたんだぜ。俺も長く生きてるが、あんな猫を見たのは初めてだ」
「なんで……なんで、もっと早く教えてくれなかったんですか!」
我慢できなくなった僕は、思わず叫んでいた。すると、ユウジは奇妙な目つきで僕を見つめる……彼の顔には、それまでと違う感情が浮かんでいた。
「ゾロに止められてたからだよ」
「そんな!? どうしてゾロは――」
「お前の前では、普通の猫でいたかったんだよ。それに、お前に余計な気を遣わせたくなかったんじゃないのかな。それ以前に、お前が察してやるべきだったと思うがね」
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