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グングニールの名を持つ少女
「……はぁ!」
何十匹目かのスライムを滅多切り。
無言で霧散したゼリー状の液体をかき集める地味な作業を続けていた。
これも、ツケまくる友人のせいである……とは一概に言えない。そもそもキール自身、あまり戦闘向きではないのだ。なので、自然とノーリスクハイリターンな魔物ばかりを狙うしかないチキンだ。
薬師としての才があっただけよかった。それ以外、特別なものなんてない。
そんなキールの視界に、ウルフの群れが見えた。その中心に人が見える。
襲われている?!
今にも噛みつきそうな勢いで唸るウルフたち。低レベルとはいえ、獰猛な魔物。スライムばかり狩ってきたキールの手に負えるかなんてわからない。だが、放っておけるはずもなく……。
「くそっ! うぉぉぉぉぉぉ!!!!」
半ばヤケクソで、突進していく。薬しか扱ったことがない、ゼリー状のスライムばかり狩ってきた錆びの目立つ、手入れも行き届いていない平凡な低コストの鉄の剣を振りかざしながら。
「ぎゃう?! 」
幸か不幸か、必死の形相に驚いたウルフたちは、勢いに負けて逃げていく。
残されたのは、キールと……ウルフたちが去って、人相がわかるようになった少女のみ。瞳は固く閉ざされ、意識はないようだ。
色素は薄く、プラチナシルバーのツインテール。毛先はほんのりとピンク色をしている。人間というには、あまりに綺麗な少女だった。
「お、おい! 大丈夫か?! 」
見惚れている場合ではない。抱き起こし、肩を揺する。 ややあって、少女はゆっくりと瞳を開く。
ピンクゴールドの、宝石のような色合いの瞳がキールを写す。
「良かった! 一人なのか?! 連れは?! 」
キールの剣幕に、瞳をパチクリしながらも首を振る。
「一人……なのか? 何でこんな場所に一人で……。名前は? 」
「……我が名は、女神の鉄槌・グングニール」
少女の口から開口一番に発せられたのは、 世界の凶器の名前。
「……俺は名前を聞いたんだぞ?」
「我はグングニールぞ?」
さしも、名前かのように応える。
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