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絶対に忘れてはならないことがある。
計り知れない苦しみと弱さ。抱いてはいけない相手に芽生えた感情。それらはほんの一部に過ぎない。目に見えるものではないからこそ、儚くて壊れやすい。少しでも油断すると、どこに転がっていくかわからない。それが人間だからだ。感情がなければ、後悔も悲しみも生み出されないし、人を愛することだってできない。
彼女は、耐えられない弱さとこの先の人生を見通していた。一四歳になったあの日、彼女は全てを捨て去ることを選んだ。厳密に言えば、目に見えない感情も、自身の肉体さえも滅ぼすために、彼女は生きることをやめてしまった。
萩原夕梨南(はぎはら ゆりな)――。彼女が犠牲を払ったのは、俺のためでもあった。だから俺は、彼女を忘れてはいけない。
彼女の思いを決して無駄にしないために、自分のために、あるいは誰かのために、前に進まなくてはならない。これは、妹が残していった、最期の願いだ。たとえどんなことがあろうとも、俺は前に進むと彼女に誓った。
有り体に言うならば、これは自己に限定されたものではなく、一人一人が前に進もうとする物語だ。日常的で、ささやかで、時には大きな問題に直面することだってある。ひとつひとつ乗り越えていけば、それは次なる前進に繋がるはずだ。俺はそう信じている。
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