想像妊娠

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 周囲の説得でようやく産婦人科に行くと、医者はこう言いました。 「妊娠はしていません。でもお腹は大きくなっています」と。  Fさんは恐ろしくなって、すぐにでも堕ろしてくれと頼みました。しかし堕ろしようがありません。胎児がいるわけではないのですから。  それなのにお腹は日に日に大きくなっていったそうです。 「私のお腹の中には何がいるの?」とつぶやくFさんは、気がふれる一歩手前でした。  八ヶ月が過ぎてお腹がパンパンになった時に、入院することになりました。  医者は困り果てていました。どうしたらいいのか見当もつかないのです。  Fさんが病室で寝ていると、久しぶりに金縛りが襲ってきました。目だけ動かすと、病室の中にゆっくりと入ってくる人影が見えたそうです。  あの人でした。自分をレイプした幽霊です。  ベッドの横に立ち尽くして、Fさんの顔をずっと無表情で見下ろしていたらしいです。  翌日です、陣痛が来たのは。  担当医はとりあえず、いつも通りの要領で分娩しました。  そうすると面白いくらいに「スゥ?」とお腹がへこんで、終わったんです。
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