想像妊娠

4/4
前へ
/311ページ
次へ
「私の赤ちゃんは? 赤ちゃんの顔を見せて」Fさんがしつこく聞いてきたそうです。  看護師さんたちは困り果ててしまい、結局そのままFさんは産婦人科から精神科に直行しました。ベッドに縛り付けられて。  夜になってもずっと「私の赤ちゃんを返せえ!」と絶叫し続けていたらしいです。分娩の時にいきんだせいで血管が切れて、顔じゅう青アザだらけですから、ビジュアル的には完全にグロテスクなホラーです。  Fさんの絶叫は徐々にすすり泣きに変わって、ようやく静かになった時、看護師はホッとしたのと同時に、奇妙な変化に気づいたんです。  Fさんの病室から赤ちゃんの泣き声が聞こえるからです。  あれ?と思って病室に入っても赤ちゃんなんてどこにもいない。  Fさんは穏やかな表情で自分の胸元を撫でていたそうです。  まるでそこに赤ちゃんを抱っこしているかのように。  今もFさんは見えない赤ちゃんをずっと育て続けています。
/311ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加