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「…ん、ミル、そちらの方は?」
「あぁ、こちらは異世界人の和人さんです」
「どうも。先日こちらの世界に越して来ました。鈴谷和人って言います。よろしくお願いします」
俺はちょこっと頭を下げた。
「ほう、異世界人ですか。私は雷雷々と言います。まあ、見た通り兵隊だ。よろしく頼むよ」
雷々さんか。敬体と常体が混じった独特の口調で覚えやすそうだ。
俺はがっしりと握手を交わした。
「あの、雷々さん、その腰にあるものって?」
「あぁ、これか?私の相棒です。中々の名刀だよ」
ほ、ほー…この刀は本物だったのか…
「ところでミル。隊長を見てませんか?」
「あら。『また』ですか?」
「そうなんだ…まぁ、見てないようなら構わない。その内戻ってくるでしょう。全く何をしているのやら…」
「あはは、まあまあ…」
どうやら隊長が行方不明らしいな。
…ん?
「それじゃ、私は失礼するよ。またご飯でも食べに行きましょう。和人さんも」
そう言うと、雷々は巡回に戻っていった…いったのだが…
「さ、行きましょうか。…和人さん?」
「…う」
「う…?」
「ト、トイレはどこだ…!」
「え!?あ、あぁ、そこの角を曲がったところに公衆のものが…」
「ちょっと行ってくる!」
言い終わるが早いか、俺は韋駄天の如く猛ダッシュした。
どうもヨーグルトがお腹に合わなかったようだ。先を急がねば―――
―――というわけで無事用を足し、手を洗っていると、同じく腹痛に悩まされていたのか、腹部をさする銀髪の男が隣の洗面台に立った。
「ふう…危ないところだった…ん?」
男は俺に気づいたようだ。
「君、見かけない顔だね。異世界人かい?」
「え、あ、はい。先日来たばかりで」
トイレで話しかけてくる妙な男に少し戸惑っていると、対してあちらは人懐っこい笑みを浮かべた。
「そうかそうか。さてはヨーグルトでやられたクチだね?」
「は、はい。どうしてわかったんですか?」
「なに、僕もよくあいつでやらかすのさ」
「今みたいにですか?」
「はは、その通り。君面白いね!名前は?」
「あ、俺は鈴谷です」
「鈴谷か!なるほどなるほど。君とはまた会うことになりそうだ。それじゃ」
「え?あの、あなたは一体」
気づけば男の背中は既にトイレの外にあった。
「あれ…?あの白服は…」
そこでミルを待たせていることを思い出し、俺は足早にトイレを後にするのだった。
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